『逃げるは恥だが役に立つ』(TBS系)と『ドクターX ~外科医・大門未知子~』(テレビ朝日系)が華々しいフィニッシュを飾るように、2016年の連続ドラマが全て終了。今年は例年以上に、事件・医療モノ以外のジャンルが多く、なかでも恋愛モノが勢いを取り戻すなど、多くの作品が楽しませてくれた。

ここでは、「朝ドラから深夜ドラマまで全作品を視聴している」ドラマ解説者の木村隆志が、一年を振り返るべく、「業界のしがらみや視聴率は一切無視」して、独断でTOP10を選んでいく。

10位 宇宙人が主人公のゲスくも爽快な異色作『ラブラブエイリアン』(フジテレビ系)

新木優子

いきなり超変化球のセレクトだが、知人のコラムニストたちが絶賛していたように、深夜2時台の放送にも関わらず、文句なしに楽しい作品だった。

物語は4人のヒロインと手のひらサイズの小人宇宙人が出会うところからはじまる。「小さいが驚異的な科学力を持つ宇宙人が居候することになり、日本人の本質や問題点が明かされていく」という筋書きだが、至るところに笑い満載。まず事実上の主人公と言える宇宙人(CG)が見事に作り込まれていた。

常に冷静沈着で、知能の低い地球人を見下しながらも、なぜかNASAに通報されることを嫌がり、極端に酒癖が悪く「地球滅ぼすぞ」を連発する宇宙人。合コン、初デート、出産、結婚、エッチなど、さまざまなテーマのトークで日本人の本音を暴いていく姿は、ゲスさだけでなく爽快感抜群だった。

新木優子、森絵梨佳、太田莉菜、久松郁実という華のある次世代ヒロインに加え、桜田通、堀井新太、佐久間由衣らのブレイク候補たちも出演するなど、若手俳優を愛でる楽しさも。女優4人によるオープニングのゆるいダンスもド深夜にハマっていた。

9位 重いテーマに挑み、普遍的な光を見せた『わたしを離さないで』(TBS系)

綾瀬はるか

何より、「臓器提供」や「クローン」など連ドラ史上まれにみる重いテーマにトライした勇気に敬服。綾瀬はるか、三浦春馬、水川あさみという人気者をキャスティングした上で、過酷な運命を背負わせることで、胸の奥底から湧き上がるような感性あふれる演技を引き出していた。

立役者は脚本家の森下佳子。「暗すぎて連ドラに向かない」と言われた原作を壊すことなく、わずかな光を与えながら、クライマックスまで導く筆致は見事だった。どんなに辛い状況に置かれた人でも、救いを求め、見い出すことができる。そんな普遍的なことにも関わらず見失いがちなことを再認識させてくれた。ながら見が多く、想像力を働かせたがらない現時点での視聴者にフィットしなかっただけで、見応えのある作品だったことは間違いない。

秋の『砂の塔』が一定の成功を収めたのも、この作品を筆頭にシリアスなテーマに挑戦し続けてきた『金曜ドラマ』そのものによるところが大きい。裏番組の「ジブリ映画再放送連発」にも負けず、2017年も頑張ってほしいと心から応援している。

8位 共感とエールを込めた若者群像劇『HOPE~期待ゼロの新入社員~』(フジテレビ系)

山本美月

韓国コミック&ドラマのプロットが良質なだけに、放送前は「いかに日本人の心に響く脚本・演出に落とし込めるか?」が注目されていた。

ビジネスシーンのリアリティに疑問が残るシーンこそあったが、サラリーマンの心情描写は丁寧かつ繊細。中島裕翔、瀬戸康史、桐山照史、山本美月ら若手社員と上司が見せる1つ1つのやり取りに、彼らへの共感とエールを込めるような優しさが感じられた。かつては人気ジャンルだった「"若者たちの群像劇"というジャンルを選び、最後まで貫こう」という真摯な姿勢はもっと評価されてしかるべきだろう。ただ、視聴率は低かったが、クチコミや満足度の高さはトップクラスで、見た人には確実に魅力が伝わっていた。

作品の世界観を形作っていたのは、遠藤憲一、山内圭哉、矢柴俊博、松田賢二、丸山智己、マギーら上司役の俳優たち。上司を写し鏡のようにして成長する若手目線から見ることも、上司の目線から見守ることもできる汎用性の高いビジネス作に仕上がっていた。ビジネス界を描いた作品は、リアリティを追求しすぎると、視聴者に息苦しさを感じさせることも多いだけに、ほどよい塩梅だった感がある。

7位 愛と政治をリンクさせ、前田敦子が開花した『毒島ゆり子のせきらら日記』(TBS系)

前田敦子

恋愛依存症で二股を繰り返すヒロインに前田敦子がジャストフィット。デレデレに甘え、男を翻弄し、泣き叫び、ボロボロになる姿を見せたほか、揺れ続ける心境を吐露したモノローグは、妙なリアリティがあった。

「誰かに愛されたい」「一人になりたくない」という女性が抱きがちな心境にフィーチャーしつつ、「愛と裏切りは切り離せない」というシビアな結末も選んだのも好印象。「政治の世界にも愛と裏切り」があることを巧みにリンクさせて、ヒロインを成長させる筋書きも絶妙だった。

クロワッサンの食べ方や、ダルマをエッチにたとえるなど、細部のディテールにも遊び心満載。「深夜の昼ドラ」というキャッチコピー通り、ベッドシーンと愛憎劇が入り乱れる様子を30分間で描き切り、しかもオリジナル作品だったことは称賛に価する。「30分の深夜ドラマでもここまで作り込める」という事実を知らしめた意義も大きく、「今年最大の掘り出し物だった」と言ってもいいだろう。

6位 自由な脚本・演出で時代劇の可能性を広げた『ちかえもん』(NHK)

青木崇高

「人形浄瑠璃の名作『曾根崎心中』の誕生と、作者・近松門左衛門の生涯を描く」という時代劇の可能性を広げるような野心作。スランプに悩みながらもひょうひょうとした近松と、まったく空気を読まず勘違いの多い渡来人・万吉の絡みは楽しく、松尾スズキと青木崇高が役にハマっていた。

さらに、「アホぼん」の小池徹平、遊女の優香と早見あかり、竹本義太夫を演じた北村有起哉など、助演も人情と薄情が入り混じる軽妙さ。キャラ造形だけでなく、音楽や美術などにも自由さをまとわせることで、時代劇とは思えない異質な映像を作り上げた。

なかでも、怒涛の展開でアッと言わせた最終回は出色。伏線の回収、オチのつけ方、映像としてのダイナミックさなど、誰もが納得できる心地よいフィナーレを飾った。

『ちかえもん』はNHKならではの試みであり、結果として時代劇の可能性を広げたのは明白。脚本・演出の力に頼るところは大きいが、まだまだ時代劇には音楽の使い方や色気の醸し方など、さまざまな娯楽性が眠っているのではないか、と期待させてくれた。