トランプ米次期大統領の経済政策、いわゆる「トランプノミクス(*)」に向かい風が吹き始めている。

(*)英語表記ではTrump-onomicsなので、日本語では「トランポノミクス」とするべきかもしれない。ただし、今のところメディアでも表記が統一されていないようなので、本稿では分かりやすく「トランプノミクス」とする。

トランプノミクスは、所得税や法人税の税率引き下げ、資産税の廃止などの減税と、交通、通信、電力などのインフラ投資を柱としている。その景気刺激効果により、経済成長率を平均3.5%に引き上げることを目指している。米国の過去5年間の経済成長率は平均2.2%なので、1ポイント以上押し上げようというわけだ。

一方で、財政赤字の拡大が懸念される。トランプノミクスに不透明な部分もあるため、分析結果にかなりの幅はあるが、10年間で最大10兆ドル程度の財政赤字拡大要因になるとされる(Tax Policy Centerなど)。米国のGDPが年間18兆ドル強なので、ザックリと計算すると年平均1兆ドル、GDP比0.5%程度赤字が拡大するとみることも可能だろう。

トランプノミクスに対して、税制改革は富裕層の優遇だとして野党民主党は抵抗する姿勢をみせている。それだけでなく、身内であるはずの共和党議員からも慎重な発言が相次いでいる。

上院の共和党リーダーであるマコンネル院内総務(上院議長は副大統領が兼務)は12月12日の会見で、「連邦債務は危険水準にあり、減税は財政収支に対して中立であるべき」と語った。つまり、減税するなら財源を確保せよということだ。そして、「(インフラへの投資額とされる)1兆ドル規模の景気刺激は不要だ」と付け加えた。

これに先立って、ライアン下院議長(=共和党リーダー)も、「税制改革は財政中立であるべき」との旨を発言している。ライアン議長は連邦政府の介入を嫌うティーパーティをバックにしており、そうした発言につながった面もあるだろう。

11月の議会選挙の結果を受けて、2017年1月には議会のメンバーも大きく変わる。そのため、マコンネル議員やライアン議員がそのまま各院のリーダーを務めるかは不明だ。それでも、共和党の主流派が財政赤字の拡大にダメ出しした意味は大きいだろう。

さて、2017年1月20日に、トランプ大統領が正式に就任する。そして、日にちを置かずに議会で所信表明演説を行うはずだ。そこでは最優先に取り組む課題や対策が明らかにされるだろう。さらに、2月にはトランプノミクスの具体的な内容を示した2018年度予算教書が発表される(2018年度は2017年10月からの1年間)。

予算教書の発表を受けて、議会は予算編成を開始する。予算編成は主に歳出に関わるものだが、減税などの税制改革も何等かの形で盛り込まれる可能性が高い。その時までに、トランプ大統領は議会を味方につけてトランプノミクスの実現に向けて前進することができるだろうか。それとも、トランプノミクスの大幅な修正を迫られるだろうか。米国経済だけでなく世界経済にも影響しかねないために、大いに注目されるところだ。

執筆者プロフィール : 西田 明弘(にしだ あきひろ)

マネースクウェア・ジャパン 市場調査部 チーフエコノミスト。1984年、日興リサーチセンターに入社。米ブルッキングス研究所客員研究員などを経て、三菱UFJモルガン・スタンレー証券入社。チーフエコノミスト、シニア債券ストラテジストとして高い評価を得る。2012年9月、マネースクウェア・ジャパン(M2J)入社。市場調査部チーフアナリストに就任。現在、M2JのWEBサイトで「市場調査部レポート」、「市場調査部エクスプレス」、「今月の特集」など多数のレポートを配信する他、TV・雑誌など様々なメディアに出演し、活躍中。

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