コロンビア大のSebastien Rumley氏は、2036年までのシリコンフォトニクスの進歩を大胆に予測した。現在は、Mellanoxの200Gbpsトランシーバが最高性能であるが、サイズの大きなMZI変調器を使っている。5年後の2021年にはサイズの小さなリング共振器が実用化され、III-V族レーザの2.5D集積も実用化される。また、シリコンフォトニクス(SiP)のファウンドリサービスが広く使えるようになる。そして、スイッチやNIC LSIに光モジュールが集積される。

2026年にはファウンドリがSiPのフルアセンブリを行うようになり、SiPのIPブロックがEDAで扱えるようになる。そして、2036年にはSiPのリンクは広く使われるようになる。シリコンレーザや光フリップフロップも実用化されるかも知れないという。

2021年にはシリコンの光インタフェースは、NICやスイッチLSIに内蔵され、SiPを使うLSIがファウンドリで作れるようになる。2026年にはSiPが標準的なIPになり、2026年にはSiPのリンクを使うのが普通になる

CPUチップから複数の1Tbpsの光ファイバーでTFETを使ったプロセサ、FPGA、GPUやHBMを使ったメモリなどを接続してシステムを構成する。そして、SiPの光スイッチを使って、これらのノードを接続したシステムを作る。

膨大なバンド幅が利用できるのでシステムアーキテクチャや利用シナリオも変わってくると考えられる。

高バンド幅でCPUとアクセラレータやHBMメモリを接続でき、ノード間も高バンド幅で結ばれるので、使い方も影響を受ける

IBMの沢田氏は、現在のTrueNorthニューロチップと低精度ニューロンを使って、高精度の結果を得る方法を開発したことを説明した。

TrueNorthは28nmプロセスを使い、4.3cm2という大きなチップであるが、消費電力は70~250mWと非常に小さい。TrueNorthのニューロンは低精度であるが、高精度のものと同程度の精度を実現する学習法を開発した

そして、ニューロモルフィックな計算の将来については、CMOSテクノロジを使って専用アーキテクチャのマシンを作ることでGPUやCPUと差別化していく。ただし、ニューロモルフィックな計算で、より複雑でインテリジェントな機能を実現することは大きなチャレンジであるという。

現在はニューラルネットワークの学習には非常に時間が掛かっているが、人間は1回見ただけで人の顔を記憶できる。しかし、どうやればそのような効率の高い学習が実現できるのか分かっていない。学習の改善は大きなチャレンジであるという。

ニューロコンピューティングの将来に関する質問と沢田氏の解答

ETH ZurichのMatthias Troyer氏は、量子コンピュータのプラットフォームは色々と作られており、現在は最大20Qubitを、数100量子ゲートが操作するというレベルであるが、5年後には特定の処理に限れば、クラシックな(量子でない)コンピュータでは届かない性能を持つ量子システムが実現する。さらに、20年後には大型の量子コンピュータが普通の存在になると予想する。

各種の方式の量子プラットフォームが作られているが、20Qubitを数100の量子ゲートで操作できるというレベルである。しかし、5年後には、特定の仕事では従来のコンピュータを上回り、20年後には量子コンピュータはコモディティになる

ただし、量子コンピュータは現在のスパコンを置き換えるのではなく、量子化学や物質科学の計算、線形の方程式を解くことやマシンラーニングなどの仕事で、アクセラレータとして使われる。これらの量子コンピュータ向きの仕事ではExaスケールのスーパーコンピュータよりも速く問題を解くことができるという。

量子化学計算、物性科学、線形方程式、機械学習などは量子コンピュータに向いた計算で、これらの計算を行なうアクセラレータとして利用できる

そして、参考として、ProjectQ.chというオープンソースの量子計算ソフトウェアスタックを紹介した。Qubitを普通のメモリでシミュレートするにはO(2N)ビットのメモリが必要となるので、30Qubit程度が上限であるが、このソフトウェアを使って量子アルゴリズムをエミュレーションすることができるという。

通常のコンピュータで量子ソフトウェアの開発ができるProjectQ.chの紹介

筆者の個人的な印象であるが、Shalf氏の言う次の10年はアーキテクチャと実装で性能改善というのは妥当なアプローチであると思われる。そして、松岡先生のいうFlopsからByteへの移行は2025年頃に起こるかどうかは確実ではないが、HPEのThe Machineと同じ考えかたであり、この方向に進むと思われる。

当面は、3D実装とマイクロアーキテクチャの改善で性能向上を達成し、メモリセントリックなアーキテクチャとアルゴリズムの開発を推進するという方向が妥当という印象であった。

ニューロモルフィックコンピューティングは、クラウドデータセンターでは、すでにアクセラレータとして付加され始めており、用途が広がるにつれてより一般化すると思われる。また、量子コンピュータも実用レベルに達すれば、アクセラレータとして接続されることになると思われる。そして、これらのアクセラレータやノード間を接続するのは広帯域の光リンクとなるのは間違いない。