NTTドコモが成田空港にスマートフォン専用のトイレットペーパーを設置する。“おもてなしの心”を感じると外国人から評価の高い日本のトイレを舞台に、ドコモが仕掛ける変わった取り組みだ。その狙いとは。
なぜトイレで、なぜペーパーなのか
ドコモはスマホ専用トイレットペーパー86個を成田空港の到着動線トイレ7カ所に設置する。ペーパーには自社で手掛ける訪日外国人向けサービスの案内を印字する。具体的には、旅行情報を調べたり翻訳などに使える「Jspeak」と、docomo Wi-Fiを訪日外国人向けに有料で提供する公衆サービス「docomo Wi-Fi for visitor」について案内する。設置期間は2016年12月16日から2017年3月15日まで。
端的にいってしまうと、ドコモがスマホ専用ペーパーを成田空港のトイレに設置するのは、ペーパーに自社のサービスを印字することによるプロモーションが目的だ。ではなぜ、場所はトイレで媒体はトイレットペーパーなのだろうか。
ドコモが空港にスマホ専用トイレットペーパーを置こうと決めた背景にはいくつかのデータがある。まず、TOTOが訪日外国人を対象に行ったアンケート調査によれば、「日本の公共トイレは自国の公共トイレより清潔だと思う」という回答は全体の93.6%と高く、日本のトイレに対する外国人の印象は非常に良い。もう1つのデータとしてドコモが提示するのは、スマホの画面は素手で長時間触り続けるため皮脂や手垢、雑菌などが多く付着しており、その雑菌の量は抗菌処理されたトイレの便座よりも多いという検査結果だ。
トイレという外国人から評価の高い場所を舞台に、スマホ専用ペーパーの提供というきめ細やかな“おもてなし”で自社サービスをアピールする。これが今回のドコモの取り組みだ。
インバウンドへの対応は喫緊の課題
それでは果たして、このプロモーションには効果があるのだろうか。なぜ引っかかるかというと、外国人は来日の前に通信環境を下調べしてきそうなので、ドコモのスマホ専用トイレットペーパーを見て、同社サービスの契約を決めるという人がどのくらいいるかが疑問だからだ。
この疑問に対する回答になりそうなのは、ドコモが提示するもう1つのデータだ。観光庁による調査を紹介しているのだが、訪日外国人が日本での旅行中に最も困ることが「Wi-Fiサービスなどネット環境」だというのだ。この調査結果を見る限り、日本に来て初めて、先進国にしては公共のネット環境が貧弱な日本の現状に気付く人も多いらしい。
「通信キャリアとして、ドコモの(訪日外国人向け)サービスを印象付けたい」。ドコモの広報に聞くと、今回の取り組みでは外国人に対する知名度向上の効果にも期待しているようだ。
インバウンド需要の取り込みは、ドコモのビジネスにとっても重要度を増しているというが、事業規模としては、まだまだ成長の余地があるというのがドコモの見立て。格安SIMが林立するなど、訪日外国人相手のビジネスは競争が熾烈だ。ドコモとしては、スマホ用トイレットペーパーを見た外国人が、直ちにドコモとWi-Fiの契約を結ばないとしても、それを見ることでドコモの社名を心に留めたり、面白いサービスだと感じてもらうことが重要だと考えているのだろう。
今回のプロモーションは、反応によっては他の空港に展開することも検討するという。訪日外国人とのタッチポイントを増やすという意味では、トイレを選んだドコモの目の付け所は良さそうだ。