甘酒――この言葉をつぶやくだけで、ほんのりあったかな気分になるのは、日本ならではの文化があってのものと言えるだろう。そんな日本の寒い冬にホッと一息つけそうな名前の通りが東京にある。下町・人形町の「甘酒横丁」だ。

冬に吸い込まれたくなる小路「甘酒横丁」

甘酒横丁は甘酒と老舗の小路

甘酒横丁は、人形町通りから明治座までの400mほどの商店街で、明治時代に甘酒屋があったためにこの名が付いたとされている。この付近には水天宮を始めとした神社が多数あり、寄席の明治座もあることから、下町情緒への期待を大きくさせるものがある。

通りは新しいものの、老舗は多数健在

実際のところは、関東大震災により整備された大通りは近代的だし、明治座も巨大なビルである。しかし、街はどことなく昭和を漂わせていて、ふと路地に入ってみるといまだ下町らしい雰囲気が健在だ。昭和初期やそれ以前からあるのではないかと思われる建築は現役で使われ、立ち並ぶ老舗は活気がある。

まずは甘酒探し

下町の商店街の楽しみは、何と言ってもその風情と食べ歩きだろう。商店街は昔から人々の台所。いつの時代も、歩きながらちょっとしたものをつまみ食いするのは楽しいひと時であったはずだ。

甘酒横丁に入ると、入口付近のお茶屋から緑茶の香りが立ち込めていた。濃いお茶の香りに誘われるが、甘酒横丁というからには、まずは甘酒を飲みたいもの。探すまでもなく、すぐに「甘酒」の看板が見つかった。

とうふの双葉の甘酒(200円)でまったり

しかしながらそれは甘酒屋ではなく、豆腐屋である。「とうふの双葉」という、創業明治40年の老舗だ。甘酒は1杯200円。白くとろみのある甘酒は、その湯気だけでも温かい気分になる。散策は始まったばかりだが、店の前に備え付けられたベンチに座ってしばしすすってみたい。地元のご老人なども座って飲んでいたりして、そんなローカル感を身近に感じるのも楽しいものだ。

双葉は豆腐屋とはいえ、ぜひ食べ歩きに加えたいお店である。「とうふの唐揚げ」(300円)や「豆乳ドーナツ」(3個310円)など、興味を抱かずにはいられない商品が店頭にぎっしりと並べられている。メロンパンほどある巨大ながんもどき「ジャンボがんも」(650円)も評判だそうだ。

ヘルシーなとうふの唐揚げ(300円)は、見た目はまるっきり鶏の唐揚げ! もちろん鶏肉と同等の食感ではないが、意外ときちんと唐揚げだ。湯葉の束に衣を付けて揚げたようなもの。味はさっぱり目で、ついパクパクいってしまいそう。豆乳ドーナツ(3個310円、5個500円)とともに

ところで甘酒屋は、筆者が目を皿にして横丁を見て回ったものの、双葉のほかにはもう1軒しか見つけられなかった。「佐々木酒店」という酒屋で、こちらは1杯100円。お好みで生姜を入れてくれる。双葉は甘め、佐々木酒店は日本酒の香りがフッと漂うちょっと大人の味だ。

佐々木酒店の甘酒(100円)は甘さ控えめ

150円で味わえる高級鯛焼き

次に訪れたのは、たい焼きの「柳屋」。評判のたい焼き屋とのことだったが、焦げた香りが漂っていなければ「開店前か? 」と思うほどに静かで、待っている人も見当たらなかった。しかし、ふとのぞくと店中に鰻の寝床のような通路があり、そこにヘアピン状に行列ができていた。この日は平日でありながら15分待ち。休日は外にも長い列ができるらしい。

柳屋の高級鯛焼き(150円)。たい焼きの他、アイス最中(バニラ・小倉/各160円)も

「高級鯛焼き」は、"高級"ながらお手頃な150円。注目のお味はいかがなものかというと、皮が薄めでサクサクしている。一般的なたい焼きよりも軽く食べられるだろう。しっぽまであんこが入っているという噂を聞いていたが、その通り、しっぽまであんこが入っていた。入っていると言うより、カリッとした生地の中に薄くあんこが挟まっていると言った方が正しい。

さっくりしたたい焼き。しっぽにもあんこが!

家族の分なのか、5個くらいまとめ買いをしている人も多い。好みによるものの、このたい焼きの場合、本当においしいのは焼きたてだと思う。試しに半分くらい持ち帰ったのだが、家に帰る頃にはサクサクではなくモチモチになっていた。トースターで軽く焼いてみたら、焼きたてに多少近くなったようだ。

今半で黒毛和牛のすき焼きを

冬場に食べ歩きたいものといえば、やはり肉まんは外せない。甘酒横丁からほんの少し横道に入った「今半」は、すき焼きやしゃぶしゃぶで有名な店だが、お惣菜も販売している。ここにもベンチが用意してあるため、"食べ歩き推奨"と考えていいだろう。

せいろを開けると湯気が立ち込める

今半の人気No.1は「すき焼きコロッケ」(173円)とのこと。しかし、冬なのであえて肉まんを選んでみた。それもただの肉まんではない。黒毛和牛のすき焼きがたっぷり詰まった「すき焼き肉まん」である。お値段は626円と、肉まんにしてはありえない金額ながら、店頭のせいろから上がる湯気を見たら飛びつかずにはいられない。すき焼きの甘辛さが染み込んだ具材は、食べ歩きの中でもごちそう級といったところだろう。

たまには高級な食べ歩きも。今半のすき焼き肉まん(626円)

日曜日はお休みの店も

甘酒横丁は、昔ながらの商店街らしい点として、日曜日が定休の店がいくつかある。無休で営業している店もあるものの、甘酒横丁を存分に堪能するためには日曜日は避けた方が無難だろう。

江戸歌舞伎発祥の地の象徴として設置されている「弁慶勧進帳像」。食べ歩きはこのあたりまでとなる

甘酒横丁は、東京メトロ「人形町駅」A1出口付近から明治座までとなっているが、食べ歩きが楽しい区間はそれより少し手前の弁慶の像があるあたりまでとなる。その先には隅田川に面した「浜町公園」があり、一休みができる……と言いたいものの、高速道路にぐるっと囲まれているため、結構な騒音である。それを物ともせずに隅田川まで出てみると、遠くにスカイツリーが望めるらしい。勇気を出して行ってみてもいいだろう。

今どき珍しい小便小僧の噴水も

浜町公園の奥に行くとスカイツリーが見えるという

甘酒横丁から横道にそれれば小さな神社や町並みを見ることもできる。甘酒を片手に、下町散策をしてみてはいかがだろうか。

横道にそれると、古い町並みや神社が健在。どこか懐かしい風景に出会える

※価格は全て税込

筆者プロフィール: 木口 マリ

執筆、編集、翻訳も手がけるフォトグラファー。旅に出る度になぜかいろいろな国の友人が増え、街を歩けばお年寄りが寄ってくる体質を持つ。現在は旅・街・いきものを中心として活動。自身のがん治療体験を時にマジメに、時にユーモラスに綴ったブログ「ハッピーな療養生活のススメ」も絶賛公開中。