AMDは12月13日(米国時間)、ユーザー向けイベントを開催し、Zenアーキテクチャを採用する次世代デスクトップCPU“Summit Ridge”(サミットリッジ)について、新たな情報を公開するとともに、同CPUを新しいCPUブランド「RYZEN」(ライゼン)として提供することを明らかにした。これに先立ち米国で開した報道関係者向けイベント「AMD Tech Summit」の内容を基に「RYZEN」について紹介する。

Zenアーキテクチャを採用するデスクトップCPU、"Summit Ridge"の製品名となる「RYZEN」ブランドを明らかにしたリサ・スー社長兼CEO

Zenアーキテクチャを採用するデスクトップCPU、開発コードネーム"Summit Ridge"の製品名は「RYZEN」(ライゼン)と名付けられた

AMDのリサ・スー社長兼CEOは、Zenの開発がスケジュールどおり順調に進んでおり、2017年第1四半期には主要ベンダーからZen採用CPUを搭載した製品が市場投入させる予定であることを改めてアピール。

AMDは、2017年第1四半期にZenアーキテクチャを採用するデスクトップ向けCPUの“Summit Ridge”(サミットリッジ)を投入するほか、サーバー向けの“Naples”(ネープルス)、ノートPCおよびメインストリームデスクトップ向けのAPUの“Raven Ridge”(レーベンリッジ)を投入する計画だ

AMDは、Summit Ridgeの投入を、パフォーマンスデスクトップ市場において、90年代以降もっともエキサイティングで革新的な出来事になるだろうとアピール

パフォーマンスデスクトップPC市場は、PCゲームやVRの台頭で今後成長が見込まれている

AMDは2016年8月の高性能プロセッサに関する技術会議HOT CHIPS 28において、Zenアーキテクチャの概要を明らかにしているが、今回のイベントでは、同CPUに実装された新機能、「SenseMI Technology」に関する概要も明らかにされた。

Summit Ridgeの特徴

プラットフォームにはAM4を採用、DDR4メモリやUSB 3.1 Gen.2への対応が追加される

Zenアーキテクチャのアップデートを行なうケビン・レンシング氏(Corpolate VP兼GM、Client Compute)

AMDは、Zenの開発にあたり、

  • パフォーマンス
  • スループット
  • 効率(エフィシェンシー)

の向上を3大要素として、アーキテクチャ開発を行なってきた。このうち、パフォーマンスと効率については、IPC(Instructions Per Clock:クロックあたりの命令処理性能)を従来のCPUより向上させるとともに、クロックあたりの電力効率(Energy Per Cycle)を、現行Excavator(エクスカベター)コアと同等に保つことで、パフォーマンスあたりの電力効率を40%引き上げている。

Zen開発にあたっての3つのポイント

消費電力あたりのパフォーマンスは、現行Excavatorコアに対して40%の向上を果たす

また、Zenに搭載されたSenseMI Technologiesでは、CPU内部に搭載された各種センサーの情報を有効活用することで、消費電力の低減や、よりアグレッシブなブースト動作、動作周波数レンジの拡大を実現するという。

SenseMI Technologiesの概要

PurePowerは、CPUの温度や動作周波数、電圧などをモニタリングし、最小限の電力で動作できるようにコントロールする。同機能は、半導体の選別にも利用され、より省電力かつ高性能なCPUの生産を支える

Precision Boostは、PurePowerと同じロジックを利用して、より精密なクロック制御や温度コントロールを実現することで、ブーストクロックを引き上げる

Extended Frequency Range(XFR)は、負荷が高いときに、ごく短時間ながらブーストクロックの上限を上回る動作周波数による動作を可能にすることで、アプリケーションの体感速度を向上させる

さらにSenseMI Technologiesによって、命令処理においてCPU内部の人工的なネットワークを活用。よりスマートな予測を可能とし、命令のプリロードや最適な命令パスの選択を行うことでスループットを向上させる「Neural Net Prediction(ニューラルネット予測)」に加えて、将来的に利用されるであるデータをあらかじめ共有L3キャッシュに格納し、効率的なデータ処理を行なえるようにする「Smart Prefetch」などの機能をサポートする。

Neural Net Predictionは、より精度の高い予測を実現することにより、スループット性能を向上させる

Smart Prefetchは、近い将来利用するであろうデータを、あらかじめ共有L3に格納しておくことで、より効率的なデータ処理を行なえるようにする

AMDによれば、このSenseMI Technologiesによって、AIや深層学習などのマシン・インテリジェンス(機械知能)用途だけでなく、ゲーマーやクリエイターにとっても、大幅なパフォーマンス向上をもたらすとという。

ZenアーキテクチャとSenseMI Technologiesは、深層学習などのHPCやエンタープライズ用途だけでなく、ゲーマーやクリエイターにもすぐれた性能をもたらすとアピール

AMDは、「AMD Tech Summit」にてSummit Ridgeの最新エンジニアリングサンプルのデモも披露した。同エンジニアリングサンプルは、8コア16スレッド、3.4GHz動作のもので、2016年8月にIDF San Franciscoのタイミングで披露されたサンプルより動作クロックが向上しており、より製品版に近い。

Intel Core i7-6900K(ベースクロック3.2GHz、Turbo Boost時最大3.7GHz)のシステムとの比較デモでは、まずHandBakeによる4Kビデオを1080pへと変換するビデオエンコードを披露。Summit Ridgeが55秒、Core i7 6900Kが58秒でエンコードを完了と、良好なCPU性能を見せた。

Summit Rdigeシステムによる4Kビデオの1080pへのトランスコードデモ

また、レンダリングの比較デモでは、システムの消費電力を計測。アイドル状態では、Summit Ridgeが99W弱なのに対し、Core i7-6900Kが107W弱、レンダリング時のピークでは、Summit Ridgeが190W弱に対して、Core i7 6900Kが約191Wを消費する結果となった(ちなみにレンダリング時間は、Core i7-6800Kが24.62秒に対し、Summit Ridgeは24.82秒であった)。

Summit Ridgeによるレイトレーシングのデモ

Intel Core i7 6900Kシステムのレンダリング実行時(上)と、アイドル時(下)の消費電力

Summit RidgeことRYZENシステムのレンダリング実行時と、アイドル時の消費電力

ただし、スー氏によると今回利用したエンジニアリングサンプルは、SenseMI Technologiesによる省電力動作の最適化や、ブースト動作は実装されておらず、製品版はさらに高性能かつ省電力動作が可能になるとするとともに、製品版では3.4GHz以上のモデルも投入する計画であることが明かされた。