世界的に遅れているとされる日本のICT(Information and Communication Technology)教育だが、土台となりそうなハードウェアとソフトウェアの環境整備には、多くの企業が取り組んでいる。日本マイクロソフトが2016年11月2日から提供している、初等中等教育向けのプログラミング教材「Minecraft: Education Edition」もその一つだ。

ベースとなる「Minecraft」がスウェーデン生まれのゲームタイトルということも相まって、スウェーデン大使館は12月10日、Minecraftを題材にサステナブル(*)な街を作成する「つくろうみんなの未来都市コンペティションin Minecraft」を開催した。対象は小学4年生から中学3年生のグループだ。

(*)地球環境の保全を目的に産業や開発面で持続可能な状態を示す。

ことの起こりは、ヴィクトリア・フォシュルンド=ベラス駐日公使/代理大使が、日本マイクロソフトの公式ブログ「学校教育でのプログラミング学習普及にむけて ~ 日本初の「Minecraft を活用したプログラミング授業」実証事業のご報告 ~」を目にしたところから始まる。スウェーデン生まれのMinecraftだからこそ、スウェーデン大使館として何かできないかという小さなアイディアから生まれたのが、今回のイベントだ。事務局によると、事前申し込みは129組365名。そこから選考された29組100名がプレゼンテーションに挑んだ。

子どもたちは、自分たちが考えるサステナビリティな街をMinecraft上で作り上げ、その特徴を登壇に上がってプレゼンテーション。例えば、1番バッターとなった都内の小学生チームは太陽光パネルを設置した家を作り、空中にはモノレール風の線路と駅を設置。電気を使わないエコな街を目指した。Minecraftのプレイ経験をお持ちの方ならお分かりになるかと思うが、MODなどを追加しなければ、電力という概念はMinecraftの世界に存在しない(炭や石炭で材料を燃やし、加工することは可能)。その世界に、自分たちがイメージする"モノ"を作り出す子どもたちの創造性には目を見張る。

サステナブルなMinecraftの街を紹介する都内小学生の皆さん

審査を行ったのは、前述のヴィクトリア氏に加えて、サステナビリティな都市開発分野に詳しいルンド大学(スウェーデン)名誉教授のラーシュ・レウテシュヴァード氏、人気YouTuberの赤石先生、Microsoft アジア担当副社長のステファン・ショストローム氏、日本マイクロソフト 執行役員 常務 パブリックセター担当 兼 Windowsクラスルーム協議会 理事長 織田浩義氏といった面々。審査員を務めた諸氏は、拙くも真剣な子どもたちのプレゼンテーションに耳を傾け、工夫した点など細かい質問を投げかけていた。

左がヴィクトリア・フォシュルンド=ベラス駐日公使/代理大使。右がルンド大学名誉教授ラーシュ・レウテシュヴァード氏

左から赤石先生、日本マイクロソフトの織田浩義氏、Microsoftのステファン・ショストローム氏

会場奥の講堂では、Minecraft: Education Editionのシングルプレイとマルチプレイを体験できるコーナーを設置。子どもたちの行列ができる大人気ぶりだ。Minecraft: Education Editionは、TNT爆薬など教育的に問題がありそうな機能を無効にできるが、今回は1人10分ほどの体験時間だったため、特に制限は設けていない(日本マイクロソフト パブリックセクター統括本部 文教本部 原田英典氏)。叫びながら攻撃しあう子もいれば、黙々と世界を探索する子もおり三者三様である。「大人では考えられない遊び方やアイディアが生まれる」(原田氏)瞬間を感じる場面だった。

プレゼンテーションを終えた子どもたちにプレイ方法を教える日本マイクロソフト パブリックセクター統括本部 文教本部 原田英典氏(右)

壁に貼られた都市の写真に街の特徴を書き込む子どもたち

さて、29組の中から最優秀賞に選ばれたのは、「KIZUNA5」。東京都内の区立小学校から小学4年生(5名)が集まったチームだ。エコと自給自足をメインテーマに掲げた未来都市を、Minecraftで作成。サッカー場や公園に感圧板を並べ、人間が遊んだり家畜が歩き回ったりすることで発電する「遊んで発電システム」を作り上げた。また、節電するためにレッドストーンブロックを配置して、スイッチのオン/オフを可能にし、エレベーターは粘着ピストンで実現。温暖化対策を講じるため、建物はガラス張りを多用し、木々を適切に配置するといった工夫も凝らしている。

今回の最優秀賞グループ「KIZUNA5」の作品

選考理由としてマグヌス・ローバック大使は、「KIZUNA5は技術的にユニーク、かつ人と動物がエネルギーを生産する点を高く評価した。ほかにも似たアイディアを形にしたチームはあったが、今回は最年少グループとしてKIZUNA5を選んだ」と評した。

審査発表前にプレゼンテーションの感想を伺ったところ、「人と人の関係性を上手に再現できている(実社会のような世界を構築したこと)に驚きを感じた」(ローバック大使)、「サステナビリティに対する問題意識を持った子どもたちが多かった。Microsoftがこれまで行ってきた若者に対する取り組みを通じて、同様のプログラムを広げたい」(ショストローム氏)といった声が聞かれた。

織田氏にも同様に感想を伺ったところ、興味深い答えが返ってきた。

「(ICT教育分野について)情熱的に取り組んできたが、今回改めて教育やITに『無限の可能性』があると痛感した。教育の理想的な姿は、苦行ではなくワクワクしながら創造的な発想を紡ぎ出していくところにある。そこにITは必須ではないが、Minecraftといった道具を使うことで、(子どもたちが)自由に思考・発想できる行程につながる」(織田氏)。

また、とある子どもたちのコメント「今の教育は自分たちの発想を活かしていない」に共感したとも。「現在のICT教育や未来の子どもたちが受けるICT教育について、さらに強く取り組まなくてはならない」(織田氏)。

「KIZUNA5」のメンバー。左から古屋優大くん、増江のの歌さん、仲田光来くん、リーダーの長利悠生くん、松村輝一くん

日本マイクロソフトは教育委員会や学校と連携し、2016年12月から順次、全国42校でMinecraft: Education Editionの授業実証実験を行っている。全国2,500名の教師と、約38,000名の生徒を対象とするが、2週間程度で応募枠が埋まってしまったそうだ。「教師側に対して、(子どもたちの柔軟な発想を引き出せる)環境が必要。我々は道具を提供する立場だが、この取り組みを加速していく」(織田氏)。

その日本では、2020年度から段階的にプログラミング教育の必修化が始まる。Minecraftというサンドボックスゲーム内にある論理演算ロジックを通じて、プログラムの基礎を自然に学び、STEM教育につながる世界を垣間見たイベントだった。

KIZUNA5の作品

阿久津良和(Cactus)