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2016年の10月に東京大学から発表された猫の腎臓病に関する研究が、大きな注目を集めました。この研究は、猫が腎臓病になりやすい原因の解明や、近い将来には猫の腎臓病の新薬開発につながるかもしれません。それではこの研究、具体的にはどんなことが明らかになったのでしょうか。

何がわかったの?

猫は、急性腎障害になった時にAIMというタンパク質の分泌が少ないことが判明しました。そして急性腎障害のマウスにAIMを投与したところ、回復する確率が高かったので、猫でも同様の効果が期待できます。

AIMって何?

AIMというのはApoptosis inhibitor of macrophageの略で、マクロファージという免疫細胞が細胞死(アポトーシス=Apoptosis)するのを抑制(インヒビター=inhibitor)し、マクロファージを長生きさせるタンパク質です。しかしその後の研究によって、AIMにはマクロファージの長生きだけでなく、いろいろな作用があることがわかりました。

その1つに、急性腎障害の時の尿細管の詰まりを解消する作用があります。急性腎障害が起こると、腎臓の尿細管の上皮細胞が死に、尿細管に詰まります。尿細管が詰まると障害がさらに進み悪化してしまいます。急性腎障害の治癒には、尿細管に詰まった細胞を除去し、新しい尿細管が再生することが必要なので、この詰まりを解消できるAIMはとても大事な役割をしています。

なんで猫のAIMは少ないの?

猫もAIMを持っていますが、ヒトやマウスと異なり、急性腎障害の時に機能していないことがわかりました。猫のAIMは免疫グロブリンMというタンパク質との結合力がマウスと比べて1,000倍以上強く、尿中に分泌されないため、尿細管の詰まりを解消できていなかったのです。

AIMの不足が猫で慢性腎臓病が多い原因なの?

猫が慢性腎臓病になりやすい理由は諸説ありますがはっきりと解明されていません。猫は濃い尿を作るため、腎臓の細部が摩耗しやすいとも考えられていますが、AIMが分泌されないことも原因の1つかもしれません。さらなる研究により明らかになるでしょう。

AIMの薬が開発されれば慢性腎臓病も治るの?

AIMの有効性が期待されるのは急性腎障害ですが、猫の腎臓病の多くは慢性腎臓病です。この2つは同じ腎機能が低下する病気ですが、その原因が少し違います。AIMが慢性腎臓病について効果があるのかは、今回の発表では触れられていません。

まとめ

今回の研究により、猫のAIMは急性腎障害の時に分泌されにくい、という特殊な性質が明らかになりました。これが猫の腎臓が悪くなりやすい理由の1つかもしれません。まずは猫の急性腎障害、または急性腎障害から移行した慢性腎臓病に対しての、新たな治療法としての期待が寄せられます。

また、AIMはさまざまな作用を持っているので、加齢による慢性腎臓病にも応用できるかもしれません。今回の日本発の研究で猫の寿命が延びる可能性は十分にあると思います。

参考: ヒトやマウスのAIMとネコのAIMの違い(出所: 東京大学「ネコに腎不全が多発する原因を究明 ―ネコでは AIM が急性腎不全治癒に機能していない― 」。Scientific Reports掲載論文より引用・改変したもの)

参考文献: Impact of feline AIM on the susceptibility of cats to renal disease. Sci Rep. 2016 oct

著者プロフィール: 山本宗伸

獣医師。猫の病院 Syu Syu CAT Clinic で副院長を務めた後、マンハッタン猫専門病院で研修を積み帰国。現在は猫専門動物病院 Tokyo Cat Specialistsの院長を務めている。ブログ nekopeidaも毎月更新中。