食事や歯磨き時など、一日に頻繁に一過性の痛みが襲ってくる知覚過敏。その原因は虫歯や食習慣、加齢、誤った歯磨き、歯周病など多様であるだけに、多くの人が生涯で一度は経験する疾患かもしれない。
それでは、実際に罹患(りかん)してしまった場合はどのように治療をすればよいのか。また、再発防止のためには何をすればよいのだろうか。M.I.H.O.矯正歯科クリニックの今村美穂医師に伺った。
まずは原因の究明から
まずは医療機関で実施する治療方法について紹介する。原因が多岐にわたるだけに、治療法もさまざま。特定の原因のみに用いられる治療法もあるため、治療に際しては当事者の知覚過敏の原因究明から始めることになる。
■知覚過敏用の薬を塗布……歯の神経(歯髄神経)を保護しており、痛みを感じる部分・象牙質が露出すると痛みを感じる。そのため、露出した象牙質の表面に薬を塗布する手法。歯と似た成分の薬を塗ると、痛みを感じる歯髄神経への刺激を遮断してくれるため、痛みが止まる。
■コーティング剤で保護……象牙質の表面に樹脂をコーティングして神経への刺激を遮断する。ただ、毎日の歯磨きなどでコーティング部分がはがれ落ちることも。「恒久的に保護するものではないので、定期的にコーティングし直し、徐々にその間隔を延ばしていくことが目的となります」と今村医師は話す。
■患部へのレーザー照射……象牙質内の象牙細管と呼ばれる、歯髄神経につながる管に開いている穴の部分にレーザーを照射し、その穴をふさぐ治療法。これで患部を保護して、その後にコーティング剤を使用する治療法がよく用いられるという。
■マウスピースを装用する……主に歯ぎしりや食いしばりが原因の知覚過敏患者に用いる。これらの歯同士に圧力がかかるクセは象牙質を保護するエナメル質をけずってしまうため、その保護のために予防的にマウスピースを装用する。
■歯周病治療をする……主に歯周病が原因の知覚過敏患者に用いる。歯周病が進行して歯茎が後退すると、象牙質が露出してしまって知覚過敏が起きやすくなるため、その悪化を防ぐための治療を施す。
■歯の神経を抜く……知覚過敏の症状が強すぎる場合、神経ごと取り除く方法もある。「歯の神経が無くなっても、歯の組織は残ります。ただ、歯の中にある血管神経を取ってしまうため、歯に栄養分が行き届かなくなり、結果として歯が弱く、もろくなってしまいます」。
神経を抜いて損をするのは患者自身
痛みは続くものの、「すぐに痛みが引くし、我慢できないほどではない」と知覚過敏を放置してしまう人もいるかもしれない。ただ、放置期間が長引くほど、「神経を抜く」しか選択肢がなくなると今村医師は指摘する。
「さまざまな治療を段階的に踏んでいけるチャンスがあるのに、それらの治療工程を一足飛びしてたどり着く最終手段が『神経を抜く』です。『歯磨き方法を変える』『食生活を改める』など、ご自身の行動を何も変容されない方ですと最終的に神経切除しか選択肢が無くなってしまうのですが、それで最も損をされるのは患者さん自身なんですね」。
神経を取った歯はもろくなるほか、変色したり、神経を取り除いた空間で感染が起き、痛みや腫れが出たりするリスクも発生する。痛みが確実に取れる反面、相応のデメリットを招く可能性もあることを覚えておこう。