2016年12月2日に米労働省が発表した11月雇用統計は、(1)非農業部門雇用者数が前月比17.8万人増(市場予想18.0万人増)、(2)失業率が4.6%(同4.9%)、(3)平均時給が25.89ドルで前月比0.1%減(同0.2%増)、前年比では2.5%増(同2.8%増)という結果であった。
(1)11月の非農業部門雇用者数の増加幅は17.8万人増とほぼ予想通りであった。10月分が14.2万人増に下方修正された一方、9月分が20.8万人増に上方修正された結果、3カ月移動平均もほぼ横ばいの17.6万人となった。安定的な雇用の増加基調を維持したと言える内容だろう。
(2)11月の失業率は一気に0.3%ポイント低下して4.6%に改善した。これは2007年8月以来の低水準であり、労働参加率が62.7%に0.1%ポイント低下した点を割り引いても極めて強い結果と言えるだろう。なお、米失業率は2009年に金融危機のあおりで10.0%まで悪化したが、そこから7年をかけて5.4%ポイント改善。1980年代以降最低の3.8%(2000年4月)まで、ついにあと1.0%ポイントを切ってきた。
(3)11月の平均時給は25.89ドルと、前月の25.92ドルから予想外の減少となった。10月分が+0.4%と高い伸びを示していた反動という面はあるにせよ、前月比での減少は約2年ぶりだ。前年比でも市場予想を大きく下回る+2.5%にとどまり、10月の+2.8%から伸びが鈍化した。前回10月分の結果からは賃金の上昇率が加速を始めた可能性もうかがえたが、今回はそうした期待がやや萎む結果となった。
(4)米11月雇用統計におけるその他の項目で目に付いたのは、不完全雇用率(U6失業率: (フルタイムの就業を希望しているものの、やむ終えずパートタイム労働に従事している就業者を含めた広義の失業率))の改善だ。今回記録した9.3%は2008年4月以来の低水準であり、同年9月に発生したリーマン・ショック後では最低という事になる。
今回の米11月雇用統計はマチマチの内容であり、賃金が減少した点などはやや気がかりと言わざるを得ない。ただ、もはや規定路線の感もある米12月利上げに対する観測が萎む事はなかった。米短期金利市場から算出する利上げ確率(米短期金利市場の利上げ織り込み度合い)は、90%台前半で高止まりしている。ただ、雇用統計の発表後に米長期金利がやや低下するとともにドルが小幅に下落しており、トランプ米大統領の就任によって2017年の利上げペースが想定以上に速まるとのやや先走った見方には水を差したと見られる。トランポノミクスによる米景気過熱やインフレ高進という、やや先走った市場観測に対するガス抜きになったと言ってもよさそうだ。
執筆者プロフィール : 神田 卓也(かんだ たくや)
株式会社外為どっとコム総合研究所 取締役調査部長。1991年9月、4年半の証券会社勤務を経て株式会社メイタン・トラディションに入社。為替(ドル/円スポットデスク)を皮切りに、資金(デポジット)、金利デリバティブ等、各種金融商品の国際取引仲介業務を担当。その後、2009年7月に外為どっとコム総合研究所の創業に参画し、為替相場・市場の調査に携わる。2011年12月より現職。現在、個人FX投資家に向けた為替情報の配信(デイリーレポート『外為トゥデイ』など)を主業務とする傍ら、相場動向などについて、WEB・新聞・雑誌・テレビ等にコメントを発信。Twitterアカウント:@kandaTakuya