北海道北斗市で静態保存された寝台特急「北斗星」の客車と、道南いさりび鉄道を活用した初の婚活イベントが11月23日に開催された。主催した北斗市商工会青年部の関係者にそのねらいを聞くとともに、当日の行程の一部を取材できたので紹介したい。
この婚活イベントは、道南いさりび鉄道を移動手段として使用し、昼食や歓談の場として「北斗星」の客車を利用するという行程。女性参加者は函館駅から、男性参加者は五稜郭駅から道南いさりび鉄道「ながまれ号」に乗り込み、自己紹介などをしながら最初の目的地である木古内駅に向かった。
木古内駅では、地元のまちおこし団体や青函地域の女性たちで構成される「津軽海峡マグロ女子会」が歓迎のうちわや大漁旗を振って参加者たちをお出迎え。「ながまれ号」からホームに降りた参加者たちの顔も、この後に待っている出会いに期待しているのか、一様に楽しげである。
駅待合室で行われた歓迎セレモニーなどに続き、男性参加者は木古内町に伝わる「寒中みそぎ」の体験に挑んだ。寒中みそぎとは、水ごりを繰り返して身を清めた4人の男子が海に飛び込み、ご神体を清めるという真冬の神事。この日は雨合羽の上から勢いよく水をかけられる方式で寒中みそぎを模擬的に体験し、女性参加者に男気をアピールした。
ただし、残念ながら男性たちの"見せ場"に興味を持たなかった女性たちもいたようで、この後の昼食会場で「寒いのはわかるし、無理強いはしないけど、男性陣ががんばっているときに見もしないでさっととバスに戻っている女性が何人かいたんだよね。男の側だって女性のそういう態度は意外とチェックしてるんだけどな……」とこぼす男性もいた。なかなかせつない話である。
地元料理とお酒で乾杯! 「北斗星」を懐かしむ参加者も
さて、木古内での行程を済ませた一行は、今度はバスに乗り込み、「北斗星」が保存されている北斗市茂辺地地区へ。この「北斗星」は、北斗市の市民有志で結成された「北斗の星に願いをプロジェクト推進委員会」がJR北海道から譲り受け、今年の夏に中学校跡地に移設したもの。ロビー室とB寝台ソロからなるスハネ25-501と、2段ベッドが向かい合った開放式B寝台車オハネフ25-2の2両がレールの上に設置されている。
移設と設置にかかる費用はクラウドファンディングで集められ、当初は1両の移設と設置に必要な1,000万円を目標としていたが、予想以上の短期間でこれを達成。目標金額を増やし、最終的には1,600万円近い募金が集まったことで、客車2両の保存が可能となった。プロジェクトの代表を務める商工会青年部副部長の澤田導俊氏は、「まず、函館市の隣に北斗市があることを知ってもらうことが第一。北斗星はその象徴となる存在であってほしい」と話す。
参加者を乗せたバスは14時すぎ、昼食会場となる「北斗星」前に到着。「北斗星」のロビー室は、アーティストによってキャンドルや布、風船その他の小物でおしゃれに飾り付けされていた。ロビー室の先にある寝台も、一部はムードたっぷりに飾り付けされていた。どうやら、気になる相手と1対1などで話したいときに利用してもらおうということらしい。あまりにも個室感たっぷりなので、初対面の相手と2人で入るのはなかなかハードルが高そうではあるが、これも「北斗星」ならではのしかけといえよう。
ただ、車内は20人以上の参加者が一堂に会して食事をするには狭すぎるとあって、車両に隣接するウッドデッキが実際の昼食会場となった。本来ならウッドデッキからも「北斗星」の車両全体が見渡せるが、冬季の開催とあってウッドデッキ全体をテントで覆ったため、テントに隣接している面しか見えない。とはいえ、一方の壁が列車の側面というだけでも、なかなかの非日常感である。
この日用意された食事は、函館のフードコーディネーターが黒毛和牛・サケ・カキなど北斗市自慢の地元食材をふんだんに用いて調理した特製料理。寒さのせいもあってか、お酒も進み、参加者同士の話も弾んだ。中には乾杯の1杯目から、そろって日本酒の熱燗を頼むテーブルもあった。
函館市から参加した男性「まる」さんは、「いさりび鉄道に乗ったのは今日が初めてだけど、北斗星には2回ほど乗ったことがあるので当時を懐かしく思い出しました。このように鉄道を活用して、地元の鉄道を盛り上げていこうという主催者の姿勢にとても感動しました」とコメント。一方、函館に用があるときには道南いさりび鉄道を利用しているという木古内町の「ゆみ」さんは、「次の行程が読めずに参加者が戸惑っている様子もあるので、次に開催するときはうまく段取りが取れているといいなと思います」と運営にやんわりと苦言を呈していた。
昼食後は徒歩で北斗市役所茂辺地支所に移動し、2015年・2016年の2年連続で全日本吹奏楽コンクール金賞を受賞した上磯中学校吹奏楽部の演奏を鑑賞。さらにゲームで交流を深めた。その後、再び「北斗星」に戻ってフリートークタイムとなり、最後に「告白」。およそ1日がかりでの交流のかいあって、3組のカップルが見事成立した。
静態保存された寝台特急「北斗星」の客車、今後の活用法は?
参加者のアテンド役を務めた商工会青年部副部長の佐々木善史氏は、「予想以上に参加者同士の会話が盛り上がって良かった。北斗市は新幹線・いさりび鉄道・北斗星と鉄道が3つそろう場所なので、今後もこれらの鉄道資源を生かしたい。今回は準備の都合で冬の開催になってしまったが、次は秋の時期に計画したい」と次回の開催に意欲を見せる。
気になる「北斗星」の今後については、「北斗の星に願いをプロジェクト推進委員会」と行政・地域住民の3者で会議を開き、活用法を検討しているとのこと。現時点では決定に至っていないが、「北斗星」をカフェとして活用し、その前で地元の農産物・海産物などを売るマルシェを開くという案が有力だという。同会代表を務める澤田氏は、「北海道新幹線ができる前の歴史を伝えるとともに、食材を含めて地域の魅力を伝える場になったらうれしい」と「北斗星」の今後にかける思いを語った。