新ロードマップIRDSの検討を立ち上げ
これまでのロードマップは、ゴードン・ムーアが1965年に、チップに集積できる部品数は毎年倍増するというロードマップを示したことから始まった。
そして、米国の半導体業界団体SIAがNational Technology Roadmap for Semiconductors(NTRS)を1998年に作成し、ムーアのロードマップを詳細化した。この活動に、ヨーロッパ、アジアの半導体業界が加わり、International Technology Roadmap for Semiconductors(ITRS)となり、2015年まで続いた。
進歩を追跡し、何が障害になるかを明らかにし、解決方法を明確にするという点で、ロードマップの作成の重要性は、RCIの第1回会合から、共有されていた。そして、ロードマップの作製は、企業の開発競争の前の段階であり、企業や学会などの関係者が集まって行う、規格の検討と似た面があると認識されていた。
ムーアの法則の停滞から、デバイス中心のロードマップでは不十分で、システムやアーキテクチャまで範囲を広げて進歩の方向を検討することが重要という認識から、2013年にITRS2.0の検討委員会と、IEEEのRCIの検討委員会は協定を結び、共同してロードマップを作る検討を開始した。
そして、2015年に米国の業界団体SIAは、ITRS2.0がSIAが作る最後のロードマップであると宣言した。ただし、米国以外の半導体業界団体は、この方針に反対で、従来の努力を続けるべきという意見であるという。
このSIAとの合意に基づき、IEEEの規格委員会は、International Roadmap for Devices and Systems(IRDS)の検討体制立ち上げに動いている。
IRDSの検討方向であるが、次の図のように、Application BenchmarkingとSystems & Architecturesというフロントエンドの検討が付け加わっている点が新しい。その下のDevices、Components、IntegrationとCapabilitiesの部分は、ITRSで行われていた検討と近いように見える。
アプリケーションの領域としては、ビッグデータ解析、動画などの認識、巨大ディスクリートシステムのシミュレーション、巨大物理システムのシミュレーションNPハードな問題の最適化、VR/ARを含むグラフィック描画、メディア処理、暗号処理などが並んでいる。つまり、従来のデータ処理でなく、これらの新しい分野の処理を行う性能を評価するという方針と見える。
そして、これらのアプリケーション領域の性能を評価してSystems & Architectures(SA)へのインプットとする。もちろん、市場のニーズが重要であり、マーケットドライバが相互にApplication Benchmarking(AB)とSAの方向性にフィードバックを与える。 そして、SAから、それの実現に必要となるテクノロジを検討する各チームに方向性が与えられる。
次の図は、ABとSAのインタフェースを示す図であるが、残念ながら黄色で書かれたSAの項目が読み取れない。
まとめであるが、IEEEのRCIではMore Moore、Microarchitecture Change、Architecture Change、Non-Von Neumannの4レベルの変更すべてを検討範囲としている。この選択基準は、変更によって得られるGainと、ソフトの作り直しなどのPainのトレードオフで決められる。
そして、新しいデバイスのR&Dは引き続き重要である。 IRDSは、アプリケーションドリブンでロードマップの策定を始めており、必要となるデバイスが判明してきている状況である。
RCIは4つのレベルの変更すべてに範囲を広げて検討を行う。選択はGainとPainのトレードオフによる。IRDSではアプリケーションドリブンのロードマップ検討が行われており、必要となるデバイスが判明しつつある |
従来のITRSは、半導体業界が主導して作られ、デバイス中心のロードマップであったが、ムーアの法則が終焉に近づき、デバイスの改善だけでは今後の進歩は期待できない。ということで、IEEEのRCIのアクティビティを含めて、アプリケーションのベンチマーキングとシステムやアーキテクチャの検討を加えて、新しいロードマップをIEEEの規格委員会を中心に作成することになった。このロードマップはIRDSと呼ばれ、すでに検討が始まっている。