米大統領選で、共和党のトランプ候補が勝利した、まさかの「トランプ・ショック」から1カ月近くが経過した。

市場では、所得税減税やインフラ投資といったトランプ氏の経済政策、いわゆる「トランプノミクス」が米経済を活性化させるとの期待が高まっている。いわば、「トランプ・ユーフォリア(高揚感)」と呼べるような状況だ。

新しい大統領が就任すると、最初の100日間は議会も協力的な姿勢で臨む「ハネムーン期間」とされる。その間に、新大統領は選挙戦で公約した野心的なアジェンダを実現しようとする。トランプ氏の場合は、「大統領らしい」勝利宣言直後から株高やドル高が示現しており、市場との間ですでに「ハネムーン」が始まっているかのようだ。

では、「トランプ・ユーフォリア」はいつまで続くのか。トランプ氏はまだ大統領に就任していない。したがって、具体的な経済政策が打ち出されるのは、まだ先のことだ。具体的な政策が出てこなければ、失望感が広がることもなさそうだ。

当面は、ホワイトハウスや閣僚の人事、議会との関係、FRBとの関係などを注視することになるだろう。政権移行チームの内紛が囁かれたり、主要閣僚にクセのある人物が指名されたりしているが、これまでのところ大きな失点はないようだ。

「トランプ大統領」は2017年1月20日に就任する。就任演説もさることながら、その後に上下両院の合同会議での所信表明演説がまずは注目だ。例年の一般教書演説に該当するものだ。そこで、優先的に取り組む課題が明らかになるだろう。

そして、2月下旬までに予算教書が発表される。これは、2017年10月に始まる2018年度の予算案であり、インフラ投資などの歳出項目が織り込まれるだろう。予算教書の発表を受けて、議会で予算審議が始まる。予算審議は夏ごろに山場を迎え、早ければ年度開始前の9月中にも成立する。ただし、年度開始後に成立がずれ込むことも珍しくはない。

大統領と同じ共和党が議会の多数派となっていることから、通常であれば大統領のアジェンダは比較的スムーズに議会を通過するはずだが、トランプ氏は共和党主流との間に大きな溝を作ったことで、議会がどこまで大統領に協力するかは未知数だ。

インフラ投資と並んでトランプ氏が提唱する所得減税は、2018年度予算の枠組みの中で審議されるかもしれない。ただ、成立を早めるために、単独の法案として審議することも可能だ。2001年に就任したブッシュ大統領は、減税を含む包括的な景気対策を打ち出し、共和党議会の協力によって同年6月にはこれを成立にもっていった。

以上から、「トランプノミクス」の詳細が明らかになるのは2017年に入ってから。それが立法化されて発効するのは2017年終盤以降となりそうだ。ただ、景況悪化などによって迅速な対応が必要となれば、2017年半ばまでに成立する可能性もなくはない。

それにしても、「トランプノミクス」の詳細が不明なままで、今後1~2カ月はユーフォリアが続くのだろうか。気まぐれで変わり身の早い市場がいつまでも同じテーマで動くとは限らないが。

執筆者プロフィール : 西田 明弘(にしだ あきひろ)

マネースクウェア・ジャパン 市場調査部 チーフエコノミスト。1984年、日興リサーチセンターに入社。米ブルッキングス研究所客員研究員などを経て、三菱UFJモルガン・スタンレー証券入社。チーフエコノミスト、シニア債券ストラテジストとして高い評価を得る。2012年9月、マネースクウェア・ジャパン(M2J)入社。市場調査部チーフアナリストに就任。現在、M2JのWEBサイトで「市場調査部レポート」、「市場調査部エクスプレス」、「今月の特集」など多数のレポートを配信する他、TV・雑誌など様々なメディアに出演し、活躍中。

※写真は本文と関係ありません