「わ~! これ面白い。どうなってるの?」――11月23日まで開催された、バンダイのプラモデル「ガンプラ」の大規模イベント「ガンプラEXPO ワールドツアージャパン 2016 WINTER」内で展示された「ガンプラビルダーズワールドカップ2016」日本決勝戦出場作品の前には、力作たちをひと目見ようと長蛇の列ができていた。そこにはコアな「ガンダム」ファンだけではなく、カップルの姿も。「ガンプラ」といえば、いわゆる"ガンオタ"と呼ばれる熱烈なファンの部屋に飾られているイメージだ。「ガンプラ」に今、何が起きているのか?
「ガンプラ」は、1979年に放送がスタートしたTVアニメ『機動戦士ガンダム』に登場したモビルスーツ(MS)を立体化したプラモデルとして1980年に発売。まもなく小中学生を中心に大ブームを巻き起こした。その後も多色成形とスナップフィットの技術の向上により、初心者でも簡単に組み立てられるモデルとしてさらなる人気を博し、シリーズとともに長きにわたって多くのファンを獲得している。
その「ガンプラ」の作り手世界一を決める公式大会として2011年より開催されているのが、「ガンプラビルダーズワールドカップ(以下、ガンプラW杯)」だ。15歳以上のオープンコースと14歳以下のジュニアコースに分かれて順位を競う。日本予選は1次と2次の写真審査を経て、一般投票とバンダイ ホビー事業部の審査員による最終審査が行われる。
11月23日には日本決勝戦の表彰式が開催され、今年の日本代表が決定。オープンコースでは横田ユースケさんの「永遠の絆 ~義経・弁慶 新しき国へ~」、ジュニアコースではタークマターさんの「ストライク&ダークマター」が選出された。源義経と弁慶が出会った五条大橋を再現した横田さんの作品は、造形の精度や塗装の仕上げの丁寧さに加え、ひと目で「日本」とわかる世界観を作り出したことが評価。背景の桜の木は約4000もの花を制作し接着するなど、すみずみまで作りこまれている。一方、ビルドストライクガンダムとデスティニーガンダムを組み合わせたタークマターさんの作品は、2機のMSの特徴的なポーズの再現と台座の仕掛けなどが評価された。
「ガンプラ」の改造コンテストといえば、ひと昔前であればコアなファン向けに行われる、同人誌的な意味合いをもつものだった。だが「ガンプラW杯」においては、おそらく「ガンダム」を知らない人ですらも、思わず見入ってしまう作品が登場する。これは、同大会の審査方法に由来する、"見られること"を徹底的に意識した作品作りによるのではないか。
日本代表を決める「ガンプラEXPO」会場では、来場者に投票用紙がわたされ、作品を審査する。一列で並び次々と作品を見ていく来場者の目にとまるには、強烈なインパクトが必要だ。実際、オープンコースで2位に選ばれたお笑いコンビ・パンクブーブーの佐藤哲夫さんの作品「リサイクルズゴック~エコだよ!それは!~」は、プラモデルが並ぶ中で、一つだけ大きなボックスが鎮座しておりインパクト大。その上でボックスをのぞくとズゴックが海底でサルベージを行っている姿を見ることができる仕掛けで、多くの人が足を止めていた。
会場で特に印象的だったのが、思わず前に進むのを忘れるようにして作品に見入る人の姿だった。確かに、無意識に足を止めてしまう作品には、なんとも言葉にできない"何か"があるように感じた。それが「世界観」の演出なのか「技術」なのか、それとも「仕掛け」の面白さや「アイデア」の特殊性なのか。またはそれらが組み合わさったものなのかは作品個々に帰属する。だが、説明を必要とせずに立ち止まらせていたことこそが、造形作品としての「ガンプラ」が新たな領域に進みつつあることの証明であるようにも思われた。
もちろん、「ガンダム」がスタートから37年目となり、複数の世代にまたがる長期シリーズとなったことで、単一作品の思い出を共有できなくなってしまったことから、戦略的に"見られる"ことに振り切った作品が生まれた側面もあるかもしれない。しかしだからこそ、今の「ガンプラW杯」は「ガンダム」や「ガンプラ」ファンでなくても楽しめる懐の深さを獲得しつつあるように思える。
12月18日にはガンダムフロント東京にて、世界13の国と地域から代表者たちが集まる世界決勝戦が開催される。2015年は『新機動戦記ガンダムW』に登場したウイングガンダムとガンダムエピオンの戦闘シーンを描いた彫刻作品を作る工房を再現したタイ代表のヴィチャユス・エイアム・オンさんの作品がオープンコース優勝に選ばれた。今年はどんな作品が登場するのか。ファンも、そうでない人も、ぜひ一度会場で実物を目にしてほしい。
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