先進国として、日本と同じように少子化に悩んでいたフランス。しかし今では、合計特殊出生率1.98の成果を残し(2014年・OECDのデータによる)、子育て大国へと成長している。

なぜフランスはうまくいったのか。パリ在住のライター・高崎順子さんの著書『フランスはどう少子化を克服したか』(新潮社/799円・税込)の出版を記念し、新潮社がトークイベントを開催。高崎さんと、育児支援のNPO法人フローレンスの代表理事であり、日本の保育事情に詳しい駒崎弘樹さんが、日本とフランスの保育の違いについて語った。

左から、パリ在住のライター・高崎順子さん、NPO法人フローレンスの駒崎弘樹 代表理事

保育園に代わる「母親アシスタント」の存在

対談は、フランスの保育園事情についての話題から始まった。高崎さんによれば、フランスでは3歳から全ての児童が通える保育学校があるものの、3歳未満の子どもを受け入れる保育園の定員数は、0~2歳の全人口の16%にとどまっているとのこと。保育園は足りない状況だが、その穴を埋めているのが「母親アシスタント」という制度だそうだ。

日本でいう「保育ママ」に似た制度で、自宅で開業し、子どもを4人までみることができる。「集団保育を受けさせるのが忍びないという気持ちから、母親アシスタントを選んでいる親も多い」と高崎さん。保育園よりも開業のハードルが低く、なおかつ開業には「母子保健センター」と呼ばれる公的機関の認可も必要となっていて、安心だ。

高崎さんによれば、フランスの親たちには、集団保育でなければならないという考えがないという。「行事の豊富さや手作りのご飯も求めていない。子どもが日中、健康に楽しく過ごせていれば、どこにいたっていいと考えている」と、保護者の意識の違いについて説明した。

これについて駒崎さんは「日本では、保育園の規模や園庭などの設備で保育の質を判断しがち」と指摘。保育者の語りかけや子どもとの関わり方に目を向け、「日本でも多様な保育のインフラを作っていく必要がある」と応じた。

保育園は親をサポートする場所

「保育園は親をサポートする場所」と高崎さん

また保育園の立ち位置も、日本とは違うとのこと。「保育園は親をサポートする場所。保育士は子育てのプロとして、保護者をレクチャーする存在でもある」と高崎さん。フランスの保育園は最大60名定員で小規模のため、連絡帳ではなく、親と保育士の対面のコミュニケーションが充実しているという。さらに保育士は、子どもの世話を主な仕事としているため、行事ごとの制作物を作る風習もないのだとか。

一方で日本の保育業界では、制作物を家で作る"持ち帰り残業"という言葉があるほど、保育士に求められる仕事量が多いとのこと。駒崎さんは「制作物が、子どもの育ちに必要だという気持ちも分かるが、保育士が心身ともに健康であることが保育の質の担保につながるはず」として、保育士のワークライフバランスの必要性について訴えた。

現状認識と必要な予算を

さらに政策の違いについても言及。高崎さんによれば、フランスでは早くから、女性の社会進出が進む現状を認識していたとのこと。少子化を国の存続の危機と捉え、働く女性に子どもをうんでもらえるよう、男性の産休の推進や、母親アシスタントに対しての補助を増やしたという。

男性の産休とは、赤ちゃんがうまれた日から取得する2週間の休暇を指し、大半が利用しているのだとか。「フランスの男性の育休取得率は2%ほど。そこで政府は"育休を取ってもらうのは難しい"と認識し、政策を方向転換したことが功を奏した」と高崎さんは語った。

駒崎さんは「日本も1990年代から少子化を認識し対策をしていたが、わずかな予算しかあててこなかった」と指摘。男性の育児参加に関しても、「育休というと、1年間取得するイメージがあるが、2週間くらいからステップを作るといいのかもしれない。期間が短くても、男性が育児のために休むことに意義がある」と感想を述べた。

フランスの現状認識力と実行力に、日本も見習うべき点があるかもしれない。

『フランスはどう少子化を克服したか』(799円・税込/新潮社)

少子化に悩む先進国から、子育て大国へ。大転換のカギは、手厚い支援策の根幹を貫く新発想だった。「2週間で男を父親にする」「子どもはおなかを痛めてうまなくていい」「保育園に連絡帳はいらない」「3歳からは全員、学校に行く」――。パリ郊外で2児を育てる著者が、現地の実情と生の声を徹底レポート。日本の保育の意外な手厚さ、行き過ぎにも気づかされる、これからの育児と少子化問題を考えるうえで必読の書。