2016年11月9日~11日、この時期の恒例となった「FileMakerカンファレンス 2016」がJPタワーホール&カンファレンス(東京)で開催された。
このカンファレンス初日の11月9日、ファイルメーカー社社長のビル・エプリング氏、米国FileMaker, Inc. エンジニアリング担当バイスプレジデントのフランク・ルー氏、米国FileMaker, Inc. デマンド・ジェネレーション担当シニア・グローバル・ヘッドのダーラ・トリシーダ氏、米国FileMaker, Inc. シニア・プロダクト・マネージャのアナンド・ベッゲラ氏に、FileMakerのビジネス戦略や新登場のFileMaker Cloudについて話を聞いた(以下、敬称略)。
長期的戦略として新規ユーザーを増やしていきたい
-- FileMaker社のビジネスがさらに成功していくためには、新規ユーザーの取り込みと、既存ユーザーの継続やライセンス数の追加という2つの方向性があると思われます。それぞれについて、どのような方針をお持ちでしょうか。
エプリング 長期的な戦略として重要と考えているのは、新規ユーザーの取り込みです。その一方で、より短期的な利益という意味でも、既存ユーザーのサブスクリプションの増加も、実行すべき戦術としてもちろん重要です。
ルー 既存のお客様に満足して使い続けていただくためには、ユーザーエクスペリエンスの改善が必要です。お客様からの声を聞いて、たとえばレイアウトモードをもっと使いやすくするなどの取り組みを続けています。
-- 新規ユーザーを増やすためには、どのような取り組みをしているのですか?
ルー テンプレートやワークフローをわかりやすい形で提供し、そこから高度な機能の利用へとスムーズに移行できるようにしていきたいと考えています。
-- 初日午前中のオープニングセッションで紹介された、カスタム Appサンプルの紹介・配布サイトのようなものですか?
ルー そうですね。日本ではこのような形で提供しています。ほかの各国でも、シンプルなテンプレートを提供しています。
「新規ユーザーが最も重要視する情報源は口コミ」
トリシーダ カスタム Appの価値を企業ユーザーの方に見てもらえるコンテンツを提供するために、ソートリーダーシップ(Thought Leadership)の活動に力を入れています。説得力のある活用事例を発信していこうという、グローバルな戦略です。FileMakerがいかにビジネスを変革できるかの可能性を訴求し、触発していくための取り組みです。
エプリング 新規ユーザーの獲得のために、私たちはさまざまなマーケティング活動をしています。ただ、どんな調査結果を見ても、新規ユーザーが最も重要視する情報源は既存のお客様からの口コミなのです。
トリシーダ 「G2 Crowd」というビジネスソフトウェアやベンダーのレビューサイトの調査において、FileMakerはRapid Application Development(RAD)の分野で第1位に選ばれました。このようなことからも、ソートリーダーシップの取り組みが目に見える成果を上げ始めていると考えられます。
-- オープニングセッションでも、今年は活用事例が多く紹介されていましたね。そのうちのひとつ、教育機関を対象とした「FileMakerキャンパスプログラム」も、新規ユーザーの獲得につながる施策ということでしょうか。
エプリング そうなることを願っています。キャンパスプログラムは、すでに10の教育機関に参加していただいています。これは今のところ日本だけのプログラムですが、日本での成果を他の市場へも広げたいと考えています。このプログラムを活用している札幌国際大学では、高大連携で高校生もFileMakerに触れる機会が設けられていると聞き、勇気づけられる思いです。学生時代にFileMakerでうまくできたという成功体験が、これからの生活の中で活用するきっかけとなり、キャリア開発にもつながると思います。
FileMaker Cloudの日本でのリリースは「Soon!」
-- AWSでFileMakerのカスタム AppをホストできるFileMaker Cloudが、米国とカナダで9月27日にリリースされました。これも新規ユーザーの獲得を狙ったものでしょうか。
エプリング 長期的には、新規ユーザーの獲得に役立つでしょう。オンプレミスのサーバーよりも簡単に導入できます。過去にはオンプレミスのサーバーが稼働し始めるまでに90日かかったという例もありましたが、オープニングセッションで紹介したようにFileMaker Cloudは20分で使い始めることができます。
ベッゲラ クラウドで使いたいという要望は、これから使おうとしている方からも既存ユーザーの方からも、たくさんありました。FileMaker Cloudのサービス開始当初は、既存ユーザーがBYOL(Bring Your Own Licence:既存のライセンスをFileMaker Cloudに移行できる仕組み)を活用して、オンプレミスから移行するケースが多いのではないかと見ています。BYOLは既存ユーザーのコミュニティからも評価されています。オンプレミス版に加えてクラウド版も登場したことで、FileMakerのモビリティに関して説得力が増したと考えています。
-- 日本でのサービス開始予定は?
ベッゲラ 具体的な日程はお話しできる段階ではありません。意図的に少しずつローンチしていく計画です。まず米国とカナダでサービスを開始しましたが、今後はEMEA(ヨーロッパと中東)、APAC(アジア太平洋)、もちろん日本へと広げていきます。
ルー Soon!(笑)
-- 新規ユーザーにとっては、費用、特に初期投資の面でもクラウドは有利ですね。
エプリング サーバーを購入して構築することは、特にスモールビジネスのお客様にとっては障壁となりがちですが、その負担がなくなります。販売する側としても、クラウドという選択肢があることでこの障壁を乗り越えやすくなり、売り上げに結びつくでしょう。
ベッゲラ FileMaker Cloudなら、まず時間単位の課金で試用してから、年間の料金体系へ移行することもできます。また、時期によるカスタム Appの利用状況の変動などは当然ありますから、AWSとのパートナーシップにより柔軟なスケーラビリティを提供できるようになったことを誇りに思っています。
「それはFileMaker Cloudに関して最も多い質問です」
-- FileMaker Cloudは、Cent OSベースのAMIからインスタンスを作成する仕組みになっています。AWSにはWindowsベースのAMIもあり、FileMaker ServerもWindows版がありますが。
ベッゲラ Cent OS版を新たに開発しました。AWSのフレーバーに合わせてハードコーディングすることで、パフォーマンスを最適化しています。
ルー Amazon社から、Cent OSベースの方がパフォーマンス面で有利というアドバイスもありました。
-- Cent OS版を新たに開発したのであれば、オンプレミスで使えるFileMaker ServerのCent OS版は販売されないのでしょうか。
ベッゲラ それは最も多く聞かれる質問ですね(笑)。その計画はありません。
-- AWS以外のパートナーシップの予定はいかがですか?
ベッゲラ それも、今のところありません。AWSがIaaS市場のリーダーであり、強固なインフラを提供していると判断したからです。
ルー 何年か経って、市場やAmazon社のビジネスに変化があれば対応していかなくてはなりませんが。
-- 新たに導入するユーザーがオンプレミスとクラウドのどちらを選ぶかを検討する際に考慮するべき点はどのようなことですか?
ベッゲラ カスタム Appをどのように展開するか、誰がカスタム Appを使うのかということですね。たとえば複数のリージョンにわたって使われるものであれば、クラウドが適しているといったようなことです。また、サーバー管理にリソースを使えるかというのも重要な点です。クラウドであれば煩雑な管理業務から解放されますし、SSLやバックアップなども簡単に設定できます。
-- オープニングセッションでは、AWSとのパートナーシップやAPIの統合などFileMaker以外のサービスやテクノロジーと関わるトピックがいくつかあったと思いますが、外部との連携に関してはどのような方針でしょうか。
ルー ほかのソフトウェアとの統合ができるようにしていこうという方向性です。以前から、SQLなど外部データとのやりとりは重要な方針です。将来的には、RESTful APIが基本になっていくと思います。