ハワイを中心に、リゾートコンドミニアムスタイルの1室の所有権を、1週間単位で得られるサービス「タイムシェア」を提供しているヒルトン・グランド・バケーションズ。平均残業時間は月に3時間と少ないことに加え、他社と比べて柔軟な時短勤務やフレックスタイムの制度を導入し、職場環境の改善を図っている。

そんな同社は2016年12月までの1年で、前年比約2割増の売り上げを達成見込みだという。子育て中の女性をはじめとして、全ての人が働きやすい環境をどのように整えたのか。またその上で、生産性の高い組織を作る秘訣はどこにあるのか。2015年9月、アジア業務の統括として経営のトップに就任したジェフ・バーニアー氏に聞いた。

ヒルトン・グランド・バケーションズ バイス・プレジデント・セールス&マーケティング・アジア

社員のモチベーションが上がる職場づくり

――職場環境の改善に向けて、初めに取り組んだことは何ですか?

まず現状を把握する必要があったので、社員から会社に対しての要望などを聞き取るアンケート調査を行いました。「チームメンバーサーベイ」と呼ばれ、私が来る前から実施していた調査ですが、私は「要望を聞きます」と"言うだけ"ではなく、実際にアクションプランを作り、"実行する"ところまでやる、というのにこだわりました。

これらの要望を受けて行ったのは、時短勤務やフレックスタイムなどの制度整備から、社内のカフェスペースをリノベーションすることまで、さまざま。一つひとつは小さなことかもしれませんが、その積み重ねで、「トップは要望を聞いてくれる」という信頼を勝ち取ることが、最も重要だと思いました。

会社にとって一番大切なのは社員です。社員を大切にすれば、ひいてはそれが、お客さまに還元され、会社の利益につながります。従業員一人ひとりがモチベーションを持って業務にあたれば、素晴らしい結果になるということは誰しも理解できることですよね。モチベーションを上げてもらうためにカギとなるのは、職場の文化、雰囲気作りなのです。

リーダー育成とダイバーシティの徹底が業績につながるコミュニケーションを作る

――従業員のモチベーションを高める職場作り、具体的にどんなことをしましたか?

大切にしたのは、社員が求めている5つの要素です。

(1)モチベーション(働く意欲)
(2)イコールペイ(平等な賃金)
(3)キャリアオポチュニティ(ビジネススキルを磨く機会)
(4)アプリシエーション(感謝されること)
(5)フレキシビリティ(柔軟性のある働き方)

まずは働く意義を明確にするために、会社として5つの目標を明確に定めました。そして、ビジネススキルを磨くための機会も提供しました。中でも特に重視したのは、リーダーシップのトレーニングです。職場でリーダー的役割を担う人には、部下のコーチング方法や業績に対してのフィードバックの仕方などを学んでもらっています。

また、賃金については、競合他社と同じ水準にしました。言うまでもないことですが、給料体系をフェアにするというのは、日本人でも外国人でも女性でも、同じ仕事をしていれば同様の給料をお支払いすることでもあります。

――「フレキシビリティ」を重視するというのは、子育て中の女性を意識してのことでしょうか?

女性に限らず、社員から要望があったものです。ポジションや部署にもよりますが、弊社のフレックスタイム制度では、10時~15時のコアタイムを守ってくれれば、出社・退社時間を都合によって変更できます。また、子どもが3歳になるまで利用できた時短勤務制度も、小学3年生までにのばしました。

――ここでも、社員それぞれの要望に徹底的に応えているということですね。

子育て中の女性だけでなく、既婚、未婚、中年、高齢者、性別問わず、全ての社員にフェアなチャンスを提供したいと思っています。組織のあり方についても、縦割りとなっていた部署の体制を変え、部署同士の横のつながりが高まるよう、意識しました。上司がリーダーシップを発揮し、異なるバックグラウンドを持った社員がさまざまな意見を出し合える職場を作ることで、業績は向上すると考えています。

"ワークスマート"を目指す厳しさも

――まだまだ多くの企業で男性管理職が多い中、女性管理職が5割、その中には子育て中の社員も多くいると聞きました。それが実現できる理由は、どんな点にあると思いますか。

たまたまその仕事に適していると思った人を集めたら、女性だったというだけです。ただ、彼女たちが働けている理由のひとつには、比較的、残業時間が短いことが挙げられると思います。弊社のスタッフの平均残業時間は月に3時間。私が求めているのは、"ワークハード"ではなく、"ワークロング"でもなく、"ワークスマート"です。

有給消化率も毎月調べて、取得率の低い方には有休を取るよう働きかけています。ワークライフバランスとバケーションの取得は、リフレッシュしてもらうために非常に重要だと思っています。

私にも子どもが3人いますが、毎朝朝食を一緒にとり、幼稚園の送迎バスまで送り、妻と30分ウォーキングすることを日課としています。そして20時までには、仕事を終えるようにしています。また週末も、野球チームのコーチをするなど、充実させています。さらに1~2週間と長期のバケーションを取ることも欠かしません。休みを取るとリフレッシュできて、新しいアイデアがうまれるし、元気になるからです。

――職場環境の改善を経て、社員からはどのような反応がありますか?

環境改善は私が行ったわけではなく、社員たちの努力の賜物ですが、職場の雰囲気が良くなったという声をよく聞きます。でも全ての人が、この環境がベストだとは思っていないかもしれません。

目標を明確にし、リーダーシップの育成に力を入れたことで、これまでよりも上司が部下の業績を細かくチェックするようになり、目標に対する結果、結果に対する責任も明確になりました。さらに、その結果に対して、常に何か改善をしなければならない環境は、人によってはつらいと感じるかもしれません。

一方で、このような環境があるからこそ、業績が上がっているという側面もあると思います。ここまで9カ月連続で売り上げ目標を達成していますし、2016年12月までの1年で前年対比19%、売り上げがアップする見込みです。

――今後、職場環境において変えていきたいことは?

シンプルですが、これまで行ってきたことをこれからも続けていきたいと思っています。「継続は力なり」という言葉がありますが、私がこの会社を去ったあとも、築き上げてきた文化が続くように、その土台を作っていきたいです。それが、リーダーとしての仕事だと思います。