共働きではなく、妻が専業主婦もしくは夫が主夫になる場合、どのくらい稼ぐ必要があるのだろうか。ファイナンシャルプランナー佐藤章子さんに聞いた。
専業主婦を望む女性が増えているようです。私が結婚する年代の時代と比較して、女性が働く環境は格段の改善がされていると思います。女性は社員になれず準社員扱い、35歳定年、結婚すれば退職、女性は男性社員の花嫁目的……と、今では信じられない状況だったことと比較して、はるかに働きやすいとは思いますが、どんな事情があるのでしょうか。
ライフスタイルで違う満足度
必要年収を算定するのは非常に難しいものがあります。かなり贅沢な生活でないと満足しない男女にとっては相当な年収を配偶者に求めると思います。反対にミニマリズム的簡素な生活をよしとする人々にとって、モノがあふれた生活は逆にストレスとなります。また家計のやりくり能力も様々で、安い食材等を工夫し、豊かな食生活を実現できる人もいれば、家事が苦手という言う人もいます。クリーニング代一つをとっても相当差が出ると思います。
最初に、なぜ専業主婦・主夫になりたいのかを2人で、あるいは自分で自問することが大切な気がします。当然専業主婦・主夫になる以上、家事全般を担当する前提となると思いますが、どこまで家事能力を発揮するつもりなのか、発揮できるのかを事前に考えることが大切ではないでしょうか。
なぜ専業主婦・主夫になりたいのか
育児家事との両立が難しい……家事を対等に分担とスタートしても、女性により負担がかかるのは目に見えています。保育所も不足している現状では、仕事との両立は困難と思うのは無理からぬものがあります。
子育てに専念したい……少なくとも子供が小さい間は、子どもと向き合いたいと思うのは自然です。保育園に預けて専門家にゆだねるので安心と考える人もいれば、保育園の事故もニュースになる現状では、他人に任せるのは不安という考える人もいます。
配偶者の希望……「夫は外で働く、妻は家庭に入る」式の考えの男女も、当然存在するでしょう。
仕事がつらい、働きたくない……同じ仕事をしていて法的には同一賃金といっても、昇進や給与に差がつくのが現実です。改善しつつあるとは言え、会社の仕組みや様々な環境も男性中心に考えられています。男性ほどモチベーションを保てないのが現実です。
ゆったりと暮らしたい……仕事がつらい、両立は難しいと連動している部分もありますが、働くこと自体に消極的な人も少なからずいるでしょう。
平均値で考えてみよう
ベースとなるものが違うので、基準となる年収は算出しても意味がなさそうですが、平均的なデータをもとにライフプランシートを作成してみることはできます。「平均値より、贅沢したい」「自分たちはその部分は簡素でもよい」等があれば、その部分だけ必要年収を増減すればよいと思います。妻が平均寿命を迎える時には、約3,400万円の貯蓄残高となります。介護費・入院費・治療費や不測の事態の出費、旅行や趣味のための費用は考慮していませんのでそれを差し引くとだいぶ少なくなるとは思います。皆様の基準と比較してどう感じるでしょうか。
前提となる平均的数値
結婚年齢: 夫31歳・妻29歳(厚生労働省 平成27年人口動態統計月報年計)
夫給与: 438万円(国税局 平成25年民間給与実態統計調査)
貯蓄額: 夫31歳時281万円・妻29歳時262万円(厚生省 平成25年国民生活基礎調査)
毎年の生活費: 2人世帯標準生活費(教育費・住居費除く)140万円/年 (知るぽると 暮らしと金融なんでもデータ)
マイホーム購入までの家賃は10万円/月とする
子供の教育費・子供の食費その他生活費は別途計上
毎年の貯蓄額: 平均的に約40万円毎年増加。だだし、収支の結果とする
子供: 第1子夫32歳、第2子35歳
マンション購入: 夫35歳、購入額3,506万円、ローン金額2,350万円、自己資金1,156万円
35年返済、固定金利2%(国土交通省平成26年度住宅市場動向調査)
分譲マンションの平均購入年齢(1次取得)は約40歳だが、30代が最も多いので35歳とする
平均収入は694万円であるが、600万円以下が最も多い
※金利は現在の金利よりも多少高めに設定している
子育て費用: (内閣府 インターネットによる子育て費用に関する調査 平成21年/知るぽると)
高校までは国公立、大学は私立 老後の生活: 60歳定年、65歳まで継続勤務、その後70歳までパート等で働く
退職一時金(大卒) 1369万円 (知るぽると 30人以上の企業平均)
年金額 204万円(知るぽると 暮らしと金融なんでもデータ 平成24年)
※マンション購入の諸費用分が不足したいたために親から400万借り入れ、その後返済。
※定年時にマンションをリフォーム。
※病気やけがの際の治療費・入院費・介護等不測の事態の出費は考慮していません。
※旅行・趣味・耐久消費財等は考慮していません。
互いの価値観が一致し専業主婦・主夫になる以上、相手の収入の範囲でやりくりするのが本来の姿でしょう。やりくりできないのであれば、最低限その分を補完するためにパート等で働くのが普通です。好きになれば仕方がありません。「専業主婦・主夫になりたいので、婚活的に年収●●万円以上を希望する」と考えるのは自由ですが、ちょっと違う気がしますし、その額は人それぞれだと思います。
幸いにもネット環境が充実し、いろいろな働き方ができる時代です。いつなんどき、どんなことが起こっても再び自活できる状態を維持してこそ、有能な専業主婦・主夫になりえるような気がします。
<著者プロフィール>
佐藤 章子
一級建築士・ファイナンシャルプランナー(CFP(R)・一級FP技能士)。建設会社や住宅メーカーで設計・商品開発・不動産活用などに従事。2001年に住まいと暮らしのコンサルタント事務所を開業。技術面・経済面双方から住まいづくりをアドバイス。
※画像は本文とは関係ありません