今回は時節柄、ボブ・ディランを取り上げてみた。50年を超えるキャリア、時代とともに変わってくる音楽、今さらノーベル賞なんて要らないのかもしれませんね、ディランには……。
さて、ディランがテーマである。回答数は1,700を超える素晴らしい勢いだった。しかし残念なことに僕がディランのアルバムは2枚しか持っていない程度のファンなのだ。ちなみに、「初期ベスト」と「欲望」である。アンケートひとつ思い浮かばない。そこでディランファン歴40年という古豪のファンである雑誌編集者、神田佳氏にアンケート作成、原稿執筆を頼んだ。
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「賛否両論」というか、「否」の意見を聞くことが多いですね、ボブ・ディランのノーベル文学賞受賞。
まあ村上春樹さんの受賞を期待して日本全国が盛り上がっていたところに、まさかのミュージシャンの受賞ですからね。
でもね。熱心なディランファンなら知っていることだと思うけれど、実は10年以上前からノーベル文学賞の候補にあがっているという話があったわけですよ。だから、個人的には驚いたというより、「やっととったか~」という感じ。
ただ、ディランがいまだに一切コメントを出していないのと、ノーベル財団がディランとまったく連絡がとれてないらしいことで、辞退するのではという話も出てますね。まあそれはそれでディランらしいと言えばらしいかな?
受賞するか辞退するかはわからないけれど、とりあえずノーベル文学賞受賞(するかもしれない)を記念してディランのアルバム対決。ただ、なにしろアルバム数が多いので、同じくらいの時期に発売されたアルバムを無理やり6つに分けての対決です。
『フリーホイーリン・ボブ・ディラン』と『ブリンギング・イット・オール・バック・ホーム』 どっちが好き?
まずはフォーク時代の代表的なアルバムから。
『フリーホイーリン・ボブ・ディラン』がもっと大差で勝つかと思っていたら『時代は変わる』大健闘。『フリーホイーリン・ボブ・ディラン』には「風に吹かれて」をはじめ「はげしい雨が降る」「くよくよするなよ」などが収録されている。いずれも数えきれないほどのアーティストにカヴァーされた名作。『時代は変わる』にも「時代は変わる」という上記3作と肩を並べる初期の名作が収録されている。この曲のパワーが大きいのかなあ? ボクもこの曲は好きな曲のひとつ。他には「ハッティ・キャロルの寂しい死」も好きだなあ。
「風に吹かれて」(1963年TVライヴ)
『ブリンギング・イット・オール・バック・ホーム』と『追憶のハイウェイ61』と『ブロンド・オン・ブロンド』 どれが好き?
続いて、フォークからロックへの移行期のアルバム3枚。
アコースティックギターからエレキギターに持ち替えたことで、これも「賛否両論」を巻き起こした時期のアルバム。コンサート会場では古いフォークファンからブーイングの嵐。ブーイングを浴びせるためだけにコンサートに来る人もいたとか。でも、そんな現象とは裏腹に、『ブリンギング・イット・オール・バック・ホーム』で初めてビルボートのベスト10内に入り(6位)、『追憶のハイウェイ61』(3位)、『ブロンド・オン・ブロンド』(9位)と商業的には成功をおさめることになる。ちなみに『フリーホイーリン・ボブ・ディラン』は22位。
で、この3枚なら『追憶のハイウェイ61』が抜きんでるかと思いきや、意外にいい勝負。なにしろ『追憶のハイウェイ61』には「ライク・ア・ローリング・ストーン」が収録されているし、他にも「トゥームストーン・ブルース」「やせっぽちのバラッド」「追憶のハイウェイ61」「親指トムのブルースのように」「廃墟の街」などが収録されている。3枚の中では若干票の少なかった『ブリンギング・イット・オール・バック・ホーム』も「サブタレニアン・ホームシック・ブルース」「シー・ビロングズ・トゥ・ミー」「ラヴ・マイナス・ゼロ/ノー・リミット 」「ミスター・タンブリン・マン」「イッツ・オールライト・マ」「イッツ・オール・オーヴァー・ナウ、ベイビー・ブルー」などを収録。ロック史上初の2枚組み『ブロンド・オン・ブロンド』には「雨の日の女」「アイ・ウォント・ユー」「メンフィス・ブルース・アゲイン」「女の如く」などを収録。どのアルバムの収録曲も素晴らしすぎる。この3枚を比べること自体やってはいけないことなのかもしれない。ちなみにボクはどれかひとつを選べないなあ。すみませんでした~。
余談になるけれど、ミュージシャン・プロデューサーの伊藤銀次さんに聞いた「ライク・ア・ローリング・ストーン」に関する逸話。ラジオでのオンエアが主体だったその当時、3分程度というのがシングルレコードの常識だったにも関わらず、この曲は6分超でシングルカット。しかしアメリカ人にはたいへん好評だったらしい。理由は「長く踊れるから」とのこと。この曲で踊るなんて、アメリカ人ってスゴイ!!
「サブタレニアン・ホームシック・ブルース」PV
「ミスター・タンブリン・マン」(1964年ニューポート・フォーク・フェスティバルより)
「親指トムのブルースのように」PV
『ジョン・ウェズリー・ハーディング』と『ナッシュヴィル・スカイライン』 どっちが好き?
1966年7月、ディランはオートバイ事故を起こして隠遁生活に入る。復帰後1作目がアコースティック主体のフォーク・カントリー回帰作とも言える『ジョン・ウェズリー・ハーディング』。そして次作の『ナッシュヴィル・スカイライン』はさらにカントリー色が強い。
で、アンケートの結果には正直驚いた。初めて『ナッシュヴィル・スカイライン』を聴いた時、ディランの声とはとても思えなかったからだ。あのしわがれた声が澄んだ声に変わっている!! こんなのディランじゃないといまでも思っている。だから個人的には苦手なアルバム。ジョニー・キャッシュと競演した「北国の少女」も『フリーホイーリン・ボブ・ディラン』バージョンの方が100倍好きだ。票を入れてくれた人ごめんなさいね。
『プラネット・ウェイヴズ』『血の轍』『欲望』 どれが好き?
1974年1月リリースの『プラネット・ウェイヴズ』でディランは初めてビルボードの1位を獲得。その後間にライヴ盤『偉大なる復活』を挟み『血の轍』、さらにお蔵入りになっていたザ・バンドとの共作『地下室』を挟み、『欲望』がビルボードの1位を獲得した。絶頂期である。とともに安定期とも言える。
この対決は、近い時期でビルボード1位という乱暴な括りだが、結果は予想通りかな。やっぱり『欲望』だよねぇ~。バイオリンを大々的にフィーチャーした一発録りの楽曲群。とりわけ1曲目の「ハリケーン」には吹っ飛びました。一部ギターとリズム隊とがまったく合ってないことなんてお構いなしに、堂々とリリースしてしまうんだものね~。
「いつまでも若く(スロー・バージョン)」(『プラネット・ウェイヴズ』収録)
『スロー・トレイン・カミング』『セイヴド』『ショット・オブ・ラブ』 どれが好き?
1978年末にディランはユダヤ教からキリスト教に改宗。その後にリリースされたのが「キリスト教三部作」や「ゴスペル三部作」と呼ばれる『スロー・トレイン・カミング』『セイヴド』『ショット・オブ・ラブ』の三作。
アンケートの結果は三作ともほぼ同等。ボクもまったく同感! この三部作については、いろいろ意見もあるようだけど、ディランの歌唱もメロディもバックの厚みも素晴らしく、甲乙つけがたい。ただし歌詞に関しては理解することを最初から放棄。わからん!
『モダン・タイムズ』『トゥゲザー・スルー・ライフ』『テンペスト』 どっちが好き?
最後は2000年代。『モダン・タイムズ』で30年ぶりにビルボード1位を獲得し、続く『トゥゲザー・スルー・ライフ』でも1位獲得。カヴァーアルバム『クリスマス・イン・ザ・ハート』を挟んで、2012年にリリースされた『テンペスト』は3位(最新作『シャドウズ・イン・ザ・ナイト』はカヴァーアルバムということで外した)。最近また売れてますね。
そういえば数年前、シンガーソングライターの友部正人さんと食事をご一緒した時に、アメリカでのディランについて聞いた。友部さんはニューヨークと日本を行き来しながら生活していて、向こうでもかなりディランのライヴを観に行っているらしい。で、友部さんいわく、最近のディランのライヴは若いファンが多くなっている。そして、彼らは曲を聴きに来るんじゃなくて、歌詞を聞きに来てるとのこと。まあ、最近というか90年代くらいから、ライヴで歌われる曲は原形をまったくとどめないまでに崩されていて、歌詞を聞いてなければ何の曲かわからないくらいだからね。ちなみに、ボクは1978年の初来日以外のディランのライヴにすべて行っているけれど、原曲の原形をとどめて歌っていたのは、トム・ペティ&ザ・ハートブレイカーズをバックに従えて来日した1986年だけ。次の1994年の時は、もう何の曲かわからない状態だったなあ。
と、話が逸れてしまったけど、逸らしたのはちょっと意図的。最近のアルバムを選ぶのはムズカシイ。アンケート結果は『モダン・タイムズ』が圧勝。ボクも『モダン・タイムズ』かな。
「ホェン・ザ・ディール・ゴーズダウン」(『モダン・タイムズ』収録)
「デューケイン・ホイッスル」(『テンペスト』収録)
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最後に、アンケートに答えていただい方からのコメントを紹介しましょう。
東京都36歳男性さんからは「ローリング・サンダー・レヴューが最も熱くて好きです」。
ボクも好きです。ローリング・サンダー・レヴューは、『欲望』の完成直後にスタートしたツアーで、この時のディランは顔を白く塗ってたりするんだよね。
ローリング・サンダー・レヴューは75年の第1期と76年の第2期があって、第2期の模様は、その年に『激しい雨』というライヴアルバムとしてリリースされるんだけど、第1期については、ライヴから27年経った2002年に公式海賊盤『ブートレッグ・シリーズ第5集:ローリング・サンダー・レヴュー』としてリリース。東京都36歳男性さんが言っているのはこっちのことですよね? ボクもこっちが好きです。
1975年ローリング・サンダー・レビューの白塗りディランによる「ブルーにこんがらがって」
調査時期: 2016年10月14日~10月18日
調査対象: マイナビニュース会員
調査数: 1,738名(男性1,141名 女性597名)
調査方法: インターネットログイン式アンケート