米大統領選挙で、民主党候補のクリントン氏が共和党候補のトランプ氏に対するリードを広げている。最近の世論調査では、支持率で10ポイント以上の差がつくことも珍しくなくなった。
選挙人獲得数に関する主要紙の予想では、クリントン氏が過半数(538人のうち270人以上)を獲得する安全圏に逃げ込んだとするものも出てきた。現時点で接戦の州を全て取っても、トランプ氏に勝ち目はないというわけだ。ほとんどの主要紙はクリントン氏支持を表明しているから、その分析にバイアスがかかっていないとは言い切れないが。
10月19日に行われた第3回で最後のディベート(TV討論)は、過去2回と同様に中傷合戦の色合いが濃かった。そうした中で、トランプ氏は致命的なミスを犯したかもしれない。根拠を示さずに選挙で不正が行われていると繰り返した後に、司会の質問に答えて、選挙結果を尊重するかどうか分からない旨の発言をしたのだ。
これは民主主義の根幹に関わることなので、さすがにトランプ支持者でも看過できないのではないか。この発言によって、トランプ氏は多くの票を失ったかもしれない。
トランプ氏の「カムバック」はもはや「奇跡」と呼べるレベルだろう。そして、「奇跡」が起きるならば、それがほとんど織り込まれていない分、金融市場は大きく反応するだろう。いわゆる「テールリスク」というものだ。BREXIT(EU離脱)を決めた英国民投票の結果以上の衝撃が走るかもしれない。
さて、ここへきて、興味はどちらが勝つかではなく、クリントン氏がどういう勝ち方をするかに移っているかもしれない。
クリントン氏が圧倒的大差をつけて「地滑り的(landslide)勝利」を収めるならば、自身の政策を推進する原動力になるだろう。そして、議会選挙でも民主党候補に有利に働く、いわゆるコートテイル効果によって、議会の上下両院を握る共和党の牙城を切り崩すことができるかもしれない。
全議席が改選される下院は現在、民主党186議席、共和党247議席、空席2となっており、民主党が逆転するのは難しそうだ。一方、100議席のうち34議席が改選となる上院は現在、民主党46議席、共和党54議席で、逆転は可能だ。改選は民主党10議席、共和党24議席で、一部報道で接戦とされる8議席のうち、7議席は共和党の改選だからだ。
他方、クリントン氏が辛勝した場合、同氏の求心力のなさが白日の下に晒される。政権運営に苦労することになるだろう。上下両院で共和党が議席の過半数を維持するならば、なおさらだ。行政府と立法府を別々の党が支配する「分断された政府(divided government)」が続くことになる。
もちろん、トランプ氏が「奇跡のカムバック」を果たす可能性もゼロではない。11月8日の投票結果から目が離せない。
執筆者プロフィール : 西田 明弘(にしだ あきひろ)
マネースクウェア・ジャパン 市場調査部 チーフエコノミスト。1984年、日興リサーチセンターに入社。米ブルッキングス研究所客員研究員などを経て、三菱UFJモルガン・スタンレー証券入社。チーフエコノミスト、シニア債券ストラテジストとして高い評価を得る。2012年9月、マネースクウェア・ジャパン(M2J)入社。市場調査部チーフアナリストに就任。現在、M2JのWEBサイトで「市場調査部レポート」、「市場調査部エクスプレス」、「今月の特集」など多数のレポートを配信する他、TV・雑誌など様々なメディアに出演し、活躍中。
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