この企画では、千葉県・鴨川シーワールドで生活する生き物たちの出産・子育てを、飼育員が詳しく解説します。3回目は「シャチ」の出産に立ち会った、小松加苗トレーナーの体験談をお伝えします。

生き抜くために必要な、自力の呼吸と授乳

シャチのラビーと赤ちゃん

こちらの写真は、1998年に日本で初めて水族館でうまれ育ったシャチ「ラビー」と、その赤ちゃんです。日本のみならず、世界でも飼育数が少ないシャチの出産に立ち会った私。うれしい気持ちと共に、不安な気持ちも大きかったのを覚えています。

シャチの妊娠期間は17カ月~18カ月ほどですが、うまれてくる赤ちゃんの生存率は50%と言われています。うみ落とされたあと、赤ちゃんは自力で泳いで水面まで行き、呼吸をしなければなりません。そして母親は、赤ちゃんに寄り添い泳ぎ、授乳をする必要があります。これがうまくいかないと、無事に育っていくことができないのです。

出産の兆候は体温で分かります。シャチの体温は通常であれば35~36度前後ですが、出産の1週間ほど前から、体温が下降。前屈をしたり、体を反らせたりする動きが増えてきて、破水が確認できると、いよいよ出産が始まります。

尾びれの先端が見え始める

激しい動きとゆっくりした泳ぎが繰り返され、陣痛を感じていることはすぐに分かりました。徐々にその動きの間隔が短くなり、赤ちゃんの尾びれの先端が見え始めます。ラビーの力みにあわせて小さな尾びれが見え、しばらくすると赤ちゃんの体の大半が出て、出産を確認することができました。

その後、心配していた水面での呼吸や泳ぎも無事に進み、ラビーも常に寄り添い、赤ちゃんの面倒をみながら授乳を行うことができました。

ラビーの出産を通し、母親の強さと生命の誕生の尊さをあらためて実感することができました。ラビー、ありがとう!

赤ちゃんは無事に水面での呼吸ができました

筆者プロフィール: 小松加苗

鴨川シーワールド海獣展示一課所属。2006年の入社で、イルカトレーナーを1年務めたあと、現在はシャチトレーナー9年目。