白川英樹博士「東京工業大学で学んだこと」
「研究にはお金や建物も必要だが、なにより人が必要。研究にふさわしい人を育てるのが大学の役目である。大学の原点は人間をつくるというところ」と、講演会の最後に登壇したのは、学生時代から助手時代までの22年間を東工大で過ごした白川英樹博士だ。
単科大学であり、小さくて風通しがよいところなどを東工大を選んだ理由として挙げた白川博士だが、実際に東工大に入って良かったと思うことは、専攻が決まるまでの1、2年生のときに受けた、英語や哲学、心理学、社会学などの教養授業の教員が充実していたことだという。白川博士は、「自然科学だけが大切なのではない。当時は思い至らなかったが、自然科学以外の社会科学、人文科学などの学術全般、芸術を含めた教養教育の大切さを実感した」と当時を振り返る。
そして、化学系のさまざまな分野の研究者が在籍している環境で修士および博士課程の研究を行った白川博士は、人との出会いが極めて大切であることに気づいたという。特に、白川博士の直接の指導教員であった山﨑升博士が、研究室内の指導だけでなく、高分解能NMRや、電子顕微鏡、赤外・ラマン分光、分子量測定などといった分野を専門とする外部の研究者と会う機会を積極的に設けたことが、その後の研究人生において重要であったと分析する。「アメリカ留学も、後のノーベル化学賞共同受賞者の一人であるAlan MacRiarmid氏に出会わせてもらったことがきっかけだった」(白川博士)
そして、白川博士は2000年に、電気を通すプラスチックを発見した功績により、ノーベル化学賞を受賞。高分子化学者である白川博士と、固体物理学者、無機化学者という異なる背景を持つ研究者3名の共同受賞となった。実は、白川博士を含めたこれら3名には、「物質科学」という共通項がある。「物質科学とは、物理学、化学、生物学にまたがる総合科学。人と人との出会いや交流が重要な役割を果たしている。単なる共同研究ではなく、お互いの分野を十分理解したうえで、密接に融合した結果」(白川博士)が、ノーベル賞受賞に繋がったと考察した。
こういった自身の経験を踏まえ、白川博士は講演の最後に「研究には設備とお金だけではなく、あくまで人が大切である」と改めて強調した。