東京工業大学(東工大)は、2030年までに「世界トップ10に入るリサーチユニバーシティ」となることを目指してさまざまな大学改革を進めており、その一環として今年度より研究改革をスタート。研究力強化に向けて、「科学技術創成研究院」を設立した。
同研究院は、4つの附置研究所、時限付きの研究センターおよび研究ユニットから構成されており、これらの研究組織が同研究院のもとで一体となることで、国内外の異分野研究交流のハブとして機能することを目指している。
本稿では、10月7日に東京工業大学すずかけ台キャンパスにて行われた同研究院の設立記念講演会・記念式典についてレポートする。記念講演会には、同研究院 フロンティア材料研究所の細野秀雄教授、細胞制御工学研究ユニットの大隅良典栄誉教授、そして同大学出身の白川英樹博士が登壇した。
細野秀雄教授「大学附置研と研究プロジェクト」
講演会のトップバッターを務めた細野秀雄教授は、「大学附置研と研究プロジェクト」と題し、東工大の附置研究所と研究プロジェクトにおける産学連携の重要性について語った。
細野教授は、近年の運営費交付金の低下に付随するかのように、日本の学生の博士課程への進学率やトップ10%論文数が減少してきていることを近年のデータを示しながら紹介したうえで、「国力という点で、非常に危ない状態。大隅先生がノーベル賞を受賞して、非常におめでたい状況だが、20年後には相当悲惨な状態になっていることがサイエンティストであればわかる」と、日本の学術界を取り巻く現状の厳しさを指摘。さらに、共同研究費の規模や件数、大学等の特許収入の統計データなども示しながら、産学協同の取り組みもほとんど効果をあげていない状況について説明した。
こういった状況において、大学の附置研究所はどうあるべきだろうか。研究所は研究に特化した機関であるという前提のもと、同研究院の附置研究所の役割として細野教授が挙げたのは、「新しい学問領域の開拓」、「インパクトの大きな領域のさらなる展開」に加えて、「プロ研究者の育成」だ。「教育プログラムをいくら整備しても、優秀な研究者は育たない。優秀な研究者は、優秀な研究者によってのみ育つ。研究者の育成を行うのは本来、研究所の役割」と、細野教授は語る。そして、そのために必要なことは何よりも「透明で厳しい人事」であるとする。
「"あの人が行くようなところでやらないと、本当の研究ができない"という意識を作っていかなければならない。人が崩れるとすべてが崩れる。学部、大学院の研究室では困難な、特殊な条件や広いスペースなどが必要となる研究を可能にするのが、附置研究所の役目」(細野教授)
また細野教授は、「国だけに頼っていては世界トップレベルの研究やイノベーションを生み出すことは難しい」としたうえで、産学連携の重要性についても言及した。
産学連携を実現するために必要なこととして、機密保持が可能な施設の設置や知財マネジメントの強化のほか、「歩いて行ってすぐにディスカッションできるような環境が非常に大事」と、キャンパスの近傍へのリサーチパーク誘致というアイディアを提案した細野教授。さらに、「大学は基礎研究、企業は応用研究、と切り分けてしまう意識ではダメ。応用のなかから基礎的な問題が出てくる。そのサイクルをまわしていくというのが本当のサイエンスだと思う」と、規模の大きな産学連携を行うために必要な心構えについて語った。