「ほら、最近よくテレビに出てるあの人……えーと、名前何だっけ? 」。この種のコメントは、誰しも一度はしたことがあるだろう。ただ、その頻度が多くなっていたら要注意。脳に「ゴミ」がたくさんたまっているかもしれないからだ。

「脳のゴミ」とも呼ばれる存在・アミロイドβは、アルツハイマー型認知症の発症率を高めかねない。そして、アルツハイマー型認知症は若年層でも起こるため、いつ自分の身に降りかかってきても不思議ではない。

では、自分の行く末に不安になった人はどうすればよいのか。実は私たちの脳には「睡眠中に老廃物をクリーニングする特別な機能」が備わっているという。肝心なのは、毎日の眠りの質を上げることで、そうすればアルツハイマー型認知症を予防できる可能性も高まる。そこで、「眠りのスペシャリスト」である三橋美穂さん直伝の「睡眠中の脳のゴミ出し術」を紹介しよう。

人の名前がスッと出てこない状況が続くようだと注意が必要だ

脳に「ゴミ」がたまる仕組み

そもそも「脳のゴミ」(アミロイドβ)とは、脳にたまった老廃物のことで、健康な脳なら排出されているべき老廃物がたまっていってしまう状態を指している。

「脳には老廃物を運ぶリンパ管がないため、脳が活動する日中はゴミが蓄積されていくのが普通。そのたまったゴミは、睡眠中に脳細胞が縮んで生まれた『すき間』から排出されていきます。この脳の中での『ゴミ出し機能』がうまく働いていれば問題ないのですが、睡眠不足だったり眠りの質が悪かったりすると、処理しきれないゴミが蓄積されてしまうのです」。

日本人の睡眠時間は世界的に見ても少なく、脳のゴミの蓄積率も高いそうだ。脳のゴミがたまると、どのような弊害があるのだろうか。

「眠りの質が悪いと、アミロイドβなどの老廃物がたまっていき、計画や意思決定、間違いの修正、問題解決といった能力が低下。仕事のパフォーマンスに大きく影響します。また、アルツハイマー型の認知症は、このアミロイドβの蓄積が原因の一つと考えられているため、放っておくと単なる物忘れどころか、自分のことがわからなくなったり、寝たきりになってしまったりすることも」。

脳のゴミは働き盛りの40代からたまり始める!

実際、すぐにでも睡眠習慣を見直したくなるような、脳のゴミや眠りの質、認知症の関係性を裏付けるさまざまな研究データが近年に報告されている。以下が具体例だ。

■アミロイドβの濃度が高い人たちは、ベッドに入っている時間に対して、実際に眠っている時間が短く睡眠効率が悪い。その中でも特に睡眠効率が悪かった人は、睡眠の質がよい人と比べて、初期のアルツハイマー型認知症を発症する可能性が5倍以上になる

■たっぷり睡眠をとると、脳の老廃物であるアミロイドβの量が、就寝前に比べて6%減った

適切なタイミングで十分に睡眠をとらないと、日々アミロイドβが蓄積されていき、認知症リスクを高めてしまうのは確かなようだ。また、まだ断定できる段階にはないものの、「アミロイドβは、認知症発症の20~30年前からたまり始めるらしい」との報告もある。

「認知症が発症しやすいのは60代以降。その20~30年前といえば、働き盛りの40代です。家事、育児、仕事と最も忙しく睡眠不足になりがちなこの時期から、アミロイドβが急激にたまり始めるといわれているので、60代になってから後悔しないよう、今のうちから睡眠習慣を整え、認知症の発症を予防したいですね」。

4つの「脳のゴミ出しテクニック」

日々の睡眠習慣を見直さないことには、脳のゴミは追い出せない。一つ一つクリアしていけば、眠りの質はもちろん、仕事の効率もグンとアップするため、以下の4つの対策を実施するように心がけよう。

夜は眠くなってからベッドに入る

眠くないのにベッドに入ると、「眠らなきゃ」と焦り、かえってストレスがたまり良質な睡眠の妨げになる。無理に寝ようとせず、眠くなってきたと感じてからベッドに入るように。

昼寝は30分、午後3時まで

認知症発症に関係するのは、睡眠時間だけではない。眠りの質も大切なポイントだ。午後3時までの30分以内の昼寝は、発症リスクを5分の1に下げることも報告されているので、ランチ休憩時など、ちょこちょこ昼寝を取り入れるとよい。

リラックスしてから眠る

眠る直前までのパソコン・スマートフォン利用、さらに深酒は、眠りの質を下げる行為。「就寝の1時間前になったらスマートフォンを見ない」「食事は就寝の3時間前にすます」「就寝時間に向かって照明を暗く落としていく」など、興奮状態の脳を鎮めてからベッドに入るようにしよう。

睡眠環境を整える

散らかっていたり、ほこりっぽかったりする部屋は、無意識にストレスを与えるもの。スムーズな入眠の妨げにもなるので、寝室は眠りに集中できる環境にするように。

認知症のほとんどは、一度発症すると治すのは難しいとされている。「人生の最期の瞬間」まで自分らしく生きるためにも、今のうちから眠りの質を高める習慣をつけておこう。

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