リオ五輪の中継で放送が飛ぶなど、例年以上に悩まされた2016年の夏ドラマが終了。「全話2ケタ視聴率の作品が0本」という壊滅的な状況の中、トップは『家売るオンナ』(日本テレビ系)の11.6%だった。2番手が『仰げば尊し』(TBS系)の10.6%、3番手が『刑事7人』(テレビ朝日系)の10.3%で、2ケタはこの3本だけ。

日本テレビの水曜22時、TBSの日曜21時、テレビ朝日の水曜21時。いずれも歴史と実績を持ち固定ファンのいる放送枠であり、前期春ドラマの1~3位も全く同じだった。しかし、テレビウォッチャーの満足度やクチコミサイトなどの指標では、別の作品が支持を集めるなど、今や視聴率は枠の人気指標のようになりつつある。

ここでは、「夏仕様の仕掛けに明暗」「真っ向勝負! 日曜ドラマの健闘」「夏の宿題は来年に持ち越しへ」という3つのポイントから検証し、全19作を振り返っていく。今回も「視聴率や俳優の人気は無視」のドラマ解説者・木村隆志がガチ解説する。

左から『せいせいするほど、愛してる』武井咲、『家売るオンナ』北川景子、『時をかける少女』黒島結菜

■ポイント1:夏仕様の仕掛けに明暗

リオ五輪の中継や在宅率が下がる"2016年の夏対策"として、各局はさまざまな仕掛けを用意していた。

『好きな人がいること』(フジテレビ系)は、海辺や花火の映像と胸キュンシーン。『ON 異常犯罪捜査官・藤堂比奈子』(フジテレビ系)は、夏らしいホラーな死体の描写。『せいせいするほど、愛してる』(TBS系)は、エアギターと一人カラオケのライブ感。『家売るオンナ』は、変人ヒロインの奇行でカラッと解決。『はじめまして、愛しています。』(テレビ朝日系)は、子どもの夏休み期間に特別養子縁組というテーマ選択。『神の舌を持つ男』(TBS系)は、堤幸彦監督のシュールな2サスギャグ。『時をかける少女』(日本テレビ系)は、全5話でリオ五輪前に終了の早業。

夏仕様の仕掛けが功を奏したと言えるのは、視聴率でトップに立った『家売るオンナ』と、ツイッターやオンデマンドで圧倒的な反響のあった『好きな人がいること』の2作のみ。そもそも夏仕様の仕掛けは、「飛び道具のような思い切った策で注目を集めて、視聴率やクチコミアップにつなげる」ことが目的だったが、大半の作品がさほど話題を集めることなく終了した。

サラリーマンの人間ドラマをハートフルに描いた『HOPE~期待ゼロの新入社員~』

■ポイント2:真っ向勝負! 日曜ドラマの健闘

前項目でふれたように、多くの作品が飛び道具のような仕掛けを使う中、日曜放送の3作はストレートな作風で真っ向勝負。『仰げば尊し』は、「学園モノのクラシック」と言える熱い師弟愛と友情を描き、『HOPE~期待ゼロの新入社員~』(フジテレビ系)は、ビジネスモノらしく社員たちの成長と絆を切り取り、『そして、誰もいなくなった』(日本テレビ系)は、「登場人物の全員が怪しい」というミステリーのど真ん中を貫いた。

視聴率は『仰げば尊し』がかろうじて2ケタを記録した程度でいずれもふるわなかったが、「テレビウォッチャー」(データニュース社)の満足度を見ると、『仰げば尊し』がトップ、『そして、誰もいなくなった』が3位、『HOPE』が4位と、日曜放送のドラマが上位に集まった(2位は『家売るオンナ』)。

このところ日曜に放送されるドラマの多くは男優主演で、幅広い視聴者層に向けて作られている。夏ドラマでは寺尾聰、藤原竜也、中島裕翔が主演を務めたが、次期の秋ドラマでも織田裕二、玉木宏、沢村一樹と実績十分の男優がズラリ。平日が女性視聴者を意識して女優主演の作品ばかりになる一方、日曜は女性に加えて男性や子どもも一緒に見られる王道の作品が増えているのだ。

夏ドラマ苦戦の中で健闘した『仰げば尊し』

■ポイント3:夏の宿題は来年に持ち越しへ

夏はリオ五輪だけでなく、もともとイベントや外出の機会が多く、テレビ業界にとっては最も厳しい時期。特に「毎週見てほしい」連ドラは苦戦必至であり、例年スタッフを悩ませてきた。

しかし、2013年の『半沢直樹』(TBS系)が空前のヒットとなって以降、各局が「夏は爆発的な視聴率が取れる時期」という意識を持ち、同作のような「右肩上がりで視聴率が上がる」コンテンツを探しはじめる。2014年の『HERO』(フジテレビ系)と、2015年の『花咲舞が黙ってない』(日本テレビ系)は、名作の続編であり、"ポスト半沢"としての期待も高かったが、いずれも前作より視聴率を下げ、第3シリーズは作られていない。

その他では、不倫を叙情的に描いた『昼顔 ~平日午後3時の恋人たち~』(フジテレビ系)のような"小成功"があったのみで、ほとんどの作品が1ケタ視聴率に沈んでいる。なかには、応援団の世界を男臭く描いた『あすなろ三三七拍子』(フジテレビ系)、日本屈指の脚本家がオムニバスでリレーした『おやじの背中』(TBS系)、合唱ミュージカル風の演出が光った『表参道高校合唱部!』(TBS系)などのチャレンジングな作品もあったが、いずれも思うような成果を収められなかった。

今年も、夏らしい「学園」「ホラー」、人気コンテンツをひと工夫した「グルメ+α」「事件解決+オールロケ」、放送回数の短縮(6作が5~8話で終了)など、他のクール以上に試行錯誤が見られたが、けっきょく"ポスト半沢"は見つからず。それどころか、"ポスト昼顔"も見当たらず、「右肩上がりのヒット」という夏の宿題は来年に持ち越されることになった。


全作の全話を見た結果、夏ドラマの最優秀作品に挙げたいのは、『HOPE』。他の作品が飛び道具のような仕掛けに走る中、サラリーマンの人間ドラマをハートフルに描き切った。『そして、誰もいなくなった』は、"追い込まれ系ヒーロー"藤原竜也の魅力をストレートに描写。ミステリー1本で最後まで駆け抜ける雄々しさを感じさせた。

男優では、生徒役との年齢差を感じさせない熱演を見せた『仰げば尊し』の寺尾聰と、ハマリ役を力まず忠実に演じた『そして、誰もいなくなった』の藤原竜也。女優では、過去のヒロインに負けないみずみずしさを感じさせた『時をかける少女』の黒島結菜と、"総理大臣と対峙する料理人"という難役をしなやかに演じた『グ・ラ・メ! ~総理の料理番~』の剛力彩芽を挙げておきたい。

また、『侠飯』(テレビ東京系)の三浦誠己、『そして、誰もいなくなった』の小市慢太郎、『HOPE』の遠藤憲一、山内圭哉などの助演男優も大活躍。作品の世界観を象徴するキャラクターで主演を引き立てていた。 余談だが、これらと同等にクオリティが高かったのは、深夜帯の『闇金ウシジマくん Season3』(TBS系)、『ラブラブエイリアン』(フジテレビ系)、『こえ恋』(テレビ東京系)。深夜ドラマらしいケレン味とリアリティのバランスが絶妙だった。

【最優秀作品】『HOPE』 次点-『そして、誰もいなくなった』『仰げば尊し』
【最優秀脚本】『そして、誰もいなくなった』 次点-『侠飯』『はじめまして、愛しています。』
【最優秀演出】『HOPE』 次点-『グ・ラ・メ!』『家売るオンナ』
【最優秀主演男優】寺尾聰(『仰げば尊し』) 次点-藤原竜也(『そして、誰もいなくなった』)
【最優秀主演女優】黒島結菜(『時をかける少女』) 次点-剛力彩芽(『グラメ』)
【最優秀助演男優】三浦誠己(『侠飯』) 次点-小市慢太郎(『そして、誰もいなくなった』)
【最優秀助演女優】多部未華子(『仰げば尊し』) 次点-神野三鈴(『せいせいするほど、愛してる』)
【優秀若手俳優】北村匠海(『仰げば尊し』) 佐藤玲(『ON』)