松嶋菜々子ふんする吉良奈津子が、結婚・出産・育児休暇をへて、3年ぶりの職場復帰で直面する問題と向き合いながら、仕事と家庭の両立に奮闘するフジテレビ系ドラマ『営業部長 吉良奈津子』(毎週木曜22:00~22:54)。この中で、伊藤歩が演じるベビーシッター・坂部深雪の言動が、ネットなどを中心に「闇が深すぎる!」など話題を集めている。
奈津子の夫・浩太郎(原田泰造)に恋心を寄せ、その家庭に亀裂を入れたかに見える坂部深雪とは一体どんな女性なのか。演じる伊藤本人に、深雪の人物像やこの物語の背景、さらには伊藤の理想の旦那さんや、どんな環境で家族や子供たちと暮らしてみたいかの理想の家庭像などについても聞いてみた――。
――本作のオファーを受けたときの感想はいかがでしたか?
正直、悩みました。オファーをいただいたとき、「奈津子さんと対峙(たいじ)する大切な役」「原田泰造さん演じる奈津子さんの夫にアプローチして家庭を壊していく役柄」と伺っていたのですが、最近は不倫がメディアなどで取り上げられていることも多く…。このタイミングでお受けすると、イメージ的に私まで嫌われてしまうのではないかと自分を守ろうとする意識は働きましたが(笑)、やらせていただく以上は自分の役割をしっかりと果たしたいと思い、お受けしました。
――奈津子さんの息子のベビーシッターとして登場した深雪は、奈津子の夫の浩太郎に接近するほか、奈津子の料理をあえて子供に食べささず、帰り道でホームレスに分け与えるなど(第1話)、その行動に少し異常性を感じます。
あの瞬間だけを見ると、確かに私も強烈過ぎると思いました(笑)。そこで、脚本を書かれた井上由美子先生や、演出の河毛俊作監督に聞いてみたのですが、井上先生がおっしゃるには、それは深雪のいたずら心なのだそうです(笑)。奈津子さんは、美しさ、仕事、才能、支えてくれるすてきな旦那さんと、非常に恵まれた女性です。自分が何も持っていないが故に、深雪は奈津子さんに対して「まだ欲しがるの?」と傷つけられたような気持ちになったのが、全てのきっかけだと思います。これまでの仕事ではそういった問題を起こしたことはなく、奈津子さんと対峙して初めて生まれた感情だったのでしょう。
――深雪はどんな過去の持ち主なのですか?
あまり良い家庭環境では育っていません。ですが一度は結婚して幸せになった。そこで働くことよりも子育てを重視していたのですが、離婚を経験し、親権まで奪われてしまって…。誇れる仕事もなければ家庭もない。子供も取られて、生きがいを失ってしまったのではないでしょうか。ちなみに私も、"嫉妬"や"うらやましい"という、深雪に近い思いは、自身の女優人生で味わったことがあります。
――それはどんなタイミングだったのでしょうか?
オーディションで受かった、受からなかったとか(笑)。「そんなにたくさん幸せを持ってるのに、それ以上欲しいの?」という気持ちは、私も分からなくはないかな(笑)
――なるほど。ドラマに戻りますが、深雪が奈津子の料理をホームレスにあげるまでに至ったのは、そういった"ないものねだり"の感情からですか?
あのシーンの深雪は単に「さすがに捨てるのはもったいない。それなら困っている人に差し上げた方がいいんじゃないか」と考えたのだと思います。何も、奈津子さんに意地悪をしたいわけではない。第1話の深雪のセリフ「(奈津子さんのお子さんが)少しでも成長してくださっていると、私としてもうれしいですから」は、彼女の本当の誠実な思い。深雪は、「壮太(高橋幸之介)くんの趣味や栄養を考えれば、オムライスを食べさせてあげた方が良い」など、自分の子供のように育てたい気持ちが強い女性なんです。つまり、自身の子供を失ってもなお、母性が非常に強い。
――シッターの仕事を始めたのも、やはり母性の強さが?
教育していく上で、「自分が作った料理や、言葉を受け入れてくれたらいいな」と。何かを受け入れてくれるっていうことは、"愛"を受け取ってくれていることだと思うんです。そういった行為が、彼女の過去の悲しみを埋めてくれていたのかもしれません。ですが次第に、奈津子さんに対して「私の方が母親としての才能はあるのに」とか「私の方が壮太くんのいいママになれるのに」という思いが重なっていった。それが暴走のきっかけになったのではないかと想像を巡らせています。
『営業部長 吉良奈津子』(フジテレビ系 毎週木曜22:00~22:54) |
――なるほど。坂部深雪をヒロインにした物語も作れそうなほどに深いですね。
彼女には暗い部分や闇がありますが、それは深雪本人にしか分からないこと。見てくださる方々に深雪の全てはお見せできないので、深雪の言動の瞬間瞬間だけを見ると、怖く感じられるのかもしれません。