パン好きなネット民の間で話題沸騰の「とびばこパン」(310円)をご存じだろうか? 名前の通り、懐かしの体育用具を模したユニークな形状に「かわいい! 」の声が殺到し、誕生からわずか数年で、大手百貨店やスーパー、駅などでも販売されるようになった人気パンである。

とびばこパン(310円)

身近なクリエーションの場を求めてパン屋に

作っているのは、大阪府堺市のパン屋「Pain de Singe(パンドサンジュ)」。JR阪和線津久野駅から徒歩6分のところに店を構えている。店主の門田充さんが店を立ち上げたのは、4年前のことだ。

「Pain de Singe(パンドサンジュ)」はロゴもオシャレ

「それまでは、長らくデザイナーとして店舗設計やグラフィックの仕事に携わっていたんです。しかし、仕事の規模が大きくなるに従って、ひとつのプロジェクトに数年を費やしたり、対企業の折衝が起こるためにエンドユーザーが遠くなったりといったことに居心地の悪さを感じるようになりました。そのうち、もっと身近なクリエーションの場を求めるようになり、自然とパン屋という職にたどり着いたんです」。

複数並べるとかわいさ倍増

そこで早速、当時暮らしていた京都のパン店で修業した後、地元・堺市に戻って2012年に独立。その際、「元デザイナーというバックボーンをパンに落とし込むことこそ、パン屋として生き抜くための唯一の手段」という信念の元、くだんの「とびばこパン」を生み出したのだという。

そびえ立つとびばこパンたち

あのフォルムがキメ細かな食感をうむ

「それまでずっと、『デザインは高尚なものではなく対話のツールである』というスタンスで仕事してきたんですけど、そこに、『誰にとっても身近な食べものであるパンに"楽しさ"を加えることで、みんなの暮らしに新たな豊かさをもたらしたい』という、パン職人としての決意が加わったことでアイディアが生まれたんです」。

そこで、まずは12立方センチメートルの各食パン1斤を削り取った大きさのとびばこ型を特注。型に流し込む生地はあえて角食と同量にすることで、容積が少ない分、密度が増してキメの細かいカステラ食感になることを狙ったとう。

パッケージデザインもさすがのクオリティ

パッケージデザインは現在目下、開発中だ

「お店では混みあっていない時以外、本物のとびばこのように横に一段ずつスライスしてお渡ししています。食べ方としては、まずはそのまま召し上がって素材のおいしさを楽しんでほしいですね。日持ちさせたい場合は冷凍庫で保管し、電子レンジで温めた後、トースターで表面をこんがり焼いて、食パンのようにパンやジャムを塗って召し上がっていただくのがオススメです」。

ひとり用としてぴったりなミニとびばこパン

ちなみに、とびばこパンと同じ天然酵母の菓子パン生地を使用して作った「ミニとびばこパン」なるものも販売しているが、こちらは、中にこしあんやカスタード、栗あん、チョコレート、いちご、ブルーベリージャムなどを詰め込んでいるため、カットするなりしてそのままいただくのが◎。

中にはあんやチョコレート、ジャムなどが詰め込まれている

「引き出物ミニとびばこパン」はプチギフトに

「季節品や限定品のとびばこパンを作ることもあります。南大阪で展開しているスーパーサンエーで販売させていただいた際には、岸和田名産の包近(かねちか)の桃で自家製コンフィチュールを作って包み込みましたし、うめだ阪急百貨店に出展させていただいた際には、自家製マンゴークリームチーズを、京都伊勢丹では白あんを詰め込みました」。

地場の材料を使ったり、自家製のものを詰め込むことで独自性を打ち出している背景には、いつの日か「大阪土産と言えば、とびばこパン、ミニとびばこパンだよね」と言ってもらえるようになりたいとの想いがあるんだとか。

そうした想いからさまざまに試行錯誤し、努力を重ねてきた結果、開店時には15個のみだったという「とびばこパン型」は、現在100個にのぼり、さらに発注中のものが届くと300個に至るんだとか。

「引き出物ミニとびばこパン」はプチギフトに

また、話題が話題を呼び、結婚式のプチギフトとしての「引き出物ミニとびばこパン」を作ったこともあれば、イトーヨーカドーから声がかかり、セブンアンドアイにちなんだ「7段とびばこパン」を作ったことも。「お祭り好きなので、特注仕様品も楽しんで対応させていただいているので、気軽に相談してほしいですね」と笑顔を見せる門田さん。

イトーヨーカドーで販売した「7段とびばこパン」(310円)

年内にはネットショップも展開

ちなみに、パンドサンジュにはその他にも、くるみとレーズンがずっしりと入った「メランジェ」(300円)、100度のオーブンで8時間焼いてサクサクに仕上げた「ラスクドプレミアム」(200円)などの絶品商品がそろっているので、堺市を訪れることがあればぜひお店に足を運んでみることをオススメしたい。

「メランジェ」(300円)

「ラスクドプレミアム」(200円)

また、全国発送にも対応しているので、どうしても来店するのが難しい場合は店に直接問い合わせするのもあり。現在は電話注文のみ受付中だが、年内にはネットショップが立ち上がる予定とのこと。さらに、9月7日~13日にかけては、うめだ阪急で開催の「パンフェア」に出店しているとのことなので、お近くの方はのぞいてみては?

「当店のコンセプトは、『おいしいとたのしい たのしいからおいしい』です。とびばこパンをはじめとするパンを通じて、みなさんの毎日のくらしが少しだけ豊かになることが、パン職人としてのわたしの一番の幸せです」との名言もキラリと光る門田さんのパン、ぜひ、自身の五感で味わってみて。

※記事中の情報・価格は2016年9月取材時のもの。価格は税別