この夏はオリンピックや選挙でイレギュラーな放送が多く、そんな中、全5回で放送された日本テレビ系ドラマ『時をかける少女』(毎週土曜21:00~21:54/7月9日~8月6日)。それぞれのキャストの新たな魅力を発見したり、青春時代のみずみずしい気持ちを感じられる作品だった。

ドラマ『時をかける少女』黒島結菜

例えば、未羽(黒島結菜)は、今時の高校生にしては幼いけれど、簡単に大人の真似事をしない、まっすぐなところが新鮮に映った。また、翔平(菊池風磨)は、未来からきたため、世間知らずな一面があり、あのヤンチャそうな見た目なのに恋を知らない。仮の母親(高畑淳子)との関係性も疑似親子ならでは(一方はそれを知らないが)の、優しさを見せ、Sexy Zoneのファンには、これぞ菊池風磨という姿をドラマで堪能できたという声も聞かれた。また、吾朗(竹内涼真)が葛藤の末、未羽に告白をする四話は彼の物語になっていた。

こうした人物に焦点を当てる物語になってたからこそ、それぞれの思いと関係性が視聴者にも共有され、胸がキュンとするような甘酸っぱい思いを感じられた人は多かったようだ。

「胸キュン」をちりばめればいいのか

昨今の若者向けドラマに「胸キュン」をテーマにしているものは多い。イケメン俳優やアイドルを配し、「胸キュン」シーンを何分かに一回ちりばめる。それを見て、「キュンキュンきた!」というツイートをする視聴者がいることで、相乗効果も狙える。

しかし、「胸キュン」のパワーをかいかぶりすぎている製作者もいるのではないだろうか。まるで「胸キュン」シーンを、人の感情を盛り上げるスイッチであるかのように使っているものも存在しているように思う。もちろん、それも番組側のサービス精神であり、いかに視聴ターゲットに喜んでもらえるかを考えてのことだとも言えるが、単に「胸キュン」シーンをちりばめれば若い女性たちが食いつくと考えていたのでは、今後は手詰まりになってしまうだろう。

『時をかける少女』と「胸キュン」をちりばめた作品を単純に比べることはできないと言われるかもしれない。なぜなら、『時かけ』は、その物語の軸が「時をかける」ことにあるからだ。しかし、もうひとつの軸は、NEWSの歌うエンディングテーマのタイトルにもある通り「恋を知らない君へ」と考えていいだろう。

「恋を知らない君へ」

劇中の未羽、翔平、吾朗は、確かに恋をしているが、それがなんたるかを知らないからこそ、お互いの気持ちを手探りで知りたいと思いながら、恋を知っていった。その「知らなさ」は三者三様だ。

翔平は未来から来て、現代の高校生の恋の仕方を知らないからこそ、大胆でストレートだ。三話の終わりでは、学園祭でやった「ロミオとジュリエット」の劇さながらに、クラスメイトたちの前で翔平が未羽に告白するシーンもあった。

未羽は、近所のコンビニに憧れの大学生はいたが、それは恋とはまた違うものだと思っていたし、幼馴染の翔平、吾朗との関係性が変わりつつあることにも、知らないふりをしたい部分があった。そして、吾朗は未羽への恋を自覚しながらも、学園祭後に仲間からキスを煽られる未羽と翔平を見ても、「ちょっと待った!」と言うこともできないくらいには、恋に不器用だ。2人を見守る吾朗の複雑な表情を残酷なまでに映し出したことで、3人のせつない気持ちがより強く伝わってきた。

決してこの作品の視聴率が良いわけではない。しかし、「胸キュン」は、視覚的にスイッチを入れたら見ているものが簡単に共鳴するものではなく、物語の中で人物の思いや葛藤を描いた結果、感じられるものではないかということを、改めて知ることができた作品だったのではないだろうか。


西森路代
ライター。地方のOLを経て上京。派遣社員、編集プロダクション勤務を経てフリーに。香港、台湾、韓国、日本などアジアのエンターテイメントと、女性の生き方について執筆中。現在、TBS RADIO「文化系トーラジオLIFE」にも出演中。著書に『K-POPがアジアを制覇する』(原書房)、共著に『女子会2.0』(NHK出版)などがある。