ISC 2016において、NASA Ames Research CenterのRupak Biswas氏が、NASAで行っている量子コンピューティングの研究について発表を行った。

NASAの量子コンピューティングについて発表するRupak Biswasディレクタ

NASAのAmes研究所には「D-Wave 2」が設置されている。この量子コンピュータはGoogleも資金を負担して設置され、共同で利用されている。

組み合せの最適化問題は、2値の選択肢が512個あれば、2512の組み合わせの中から最適解を探すことになる。2512は10153で、ExaFlopsのスパコンでも、全部の選択肢の組み合わせを評価するには1180億年掛かる計算になる。これは宇宙の年齢より8倍くらい長い時間で、事実上、この最適化問題は、通常のコンピュータでは解けない。

このような問題を解く方法として、NASAは量子コンピューティングに取り組んでいる。データアナリシスやデータフュージョン、航空管制、宇宙探査などのミッションコントロールと協調動作、異常検出と対策の決定、惑星探査車のVerificationとValidation、トポロジを考慮した並列計算などは、容易には解けないNPハードな問題である。しかし、量子コンピューティングを使うと、実用的な時間で解ける可能性がある。

量子コンピューティングで通常のコンピュータでは解けないNPハードな問題を解く (この記事のすべての図は、ISC 2016でのBiswas氏の発表スライドを撮影したものである)

量子ビット(Qubit)は0と1の状態の重ね合わせの状態を取ることができるので、N個のqubitがあれば、2Nの状態を表すことができる。量子実験を行うと、初期値とシステムの構成で決まるシステム状態になるので、それを測定するのであるが、結果は2値の値として確率的にしか読み出せない。

初期値とシステムの構成で決まる最終状態が答えになるようにし、最終状態を読み出す

量子コンピュータの作り方としては、イオンや中性の原子をトラップして操作する方法やフォトンをトラップして操作する方法、そして超電導を利用してqubitを作る方法、NMRを利用して作る方法などが論文発表されているが、ほとんどは数qubitのシステムしか実現できていない。その中で、D-WaveのWashingtonチップは、量子アニール用で汎用の量子計算はできないが、1152qubitを集積している。

各種の量子コンピュータの実現方法。D-Wave以外は、数qubit程度の規模である

量子アニールの方は、約15年にわたる理論研究と7~8年の実験を行ってきており、1000qubit以上のプロセサがD-waveから購入することができる状態になっている。ただし、実用的な問題には~10Kqubit程度が必要であり、現状の10倍のqubitが必要である。また、量子アニールを使うことにより、大幅なスピードアップが得られるはずであるが、実験的には、まだ、証明されていない。そして、ノイズや温度が、量子計算にどのような影響を与えるかについても、まだ、ほとんど分かっていないという。

量子ゲート型の量子コンピューティングは、約30年の理論研究と約20年の実験の歴史がある。因数分解などの問題では、通常のコンピュータに比べて大幅に早く計算できることが実証されており、エラー訂正の方法も確立されているので、安定な計算が行える。しかし、現状では10qubit程度のシステムしか作れないのであるが、実用的な量子コンピュータには1M qubit程度が必要と考えられ、このようなマシンを作るには、少なくとも15年はかかると見られている。

このような状況であるので、NASAとしては、量子アニール方式の研究に力を入れている。

量子アニールと汎用量子計算に現状。汎用の計算はできないが、量子アニールの方が実用に近い