2016年8月5日に米労働省が発表した7月雇用統計は、(1)非農業部門雇用者数が前月比25.5万人増(予想18.0万人増)、(2)失業率が4.9%(同4.8%)、(3)平均時給が25.69ドルと前月比0.3%増(同0.2%増)、前年比では2.6%増(同2.6%増)という結果であった。
(1)非農業部門雇用者数は、2カ月連続で25万人以上の増加を記録した。なお、5月分は1.1万人増から2.9万人増に、6月分は28.7万人増から29.2万人増にそれぞれ上方修正された。その結果、直近3カ月の平均増加幅は19.0万人となり、5月以前の水準を回復。5月の落ち込みは、米景気減速の兆候ではなく統計の一時的な「歪み」であった可能性が高まった。
(2)失業率については、予想には届かなかったが、労働参加率が62.8%に上昇にする中で前月と同水準を維持しており、特に問題視すべきものではないだろう。職探しを再開し、失業者としてカウントされる(労働市場に復帰した)人が増えた事が労働参加率の上昇につながっており、そうした中での失業率の横ばいはむしろ好内容と言えるかもしれない。
(3)平均時給は6月の25.61ドルから0.08ドル増加。7カ月連続の増加であり、賃金の上昇基調が続いている事が確認された。もっとも、そのペースはリーマン・ショック前の前年比3%台に比べれば相変わらず緩やかだ。米経済の7割を占める個人消費を一段と押し上げて、インフレ期待を急速に高めるほどの賃金上昇圧力は、まだ感じられないといったところだろう。
今回の米7月雇用統計は好結果であったにもかかわらず、次回9月の米連邦公開市場委員会(FOMC)での利上げ期待には大きく影響しなかった。シカゴ・マーカンタイル取引所(CME)のFEDウオッチツールによると、9月利上げの確率は発表前の9.0%から15.0%へ上昇したにすぎない。それだけに、ドル/円相場の上昇が1円未満にとどまるなど、為替市場ではドル買いに勢いが感じられなかった。一方で、NYダウ平均が史上最高値にあと80ドルに迫るなど、米国株は雇用統計を好感して力強く上昇した。市場には、英国情勢や米大統領選の行方をにらんで、米FOMCはそう簡単に早期の利上げには踏み切れないとの見方が強いようだ。
執筆者プロフィール : 神田 卓也(かんだ たくや)
株式会社外為どっとコム総合研究所 取締役調査部長。1991年9月、4年半の証券会社勤務を経て株式会社メイタン・トラディションに入社。為替(ドル/円スポットデスク)を皮切りに、資金(デポジット)、金利デリバティブ等、各種金融商品の国際取引仲介業務を担当。その後、2009年7月に外為どっとコム総合研究所の創業に参画し、為替相場・市場の調査に携わる。2011年12月より現職。現在、個人FX投資家に向けた為替情報の配信(デイリーレポート『外為トゥデイ』など)を主業務とする傍ら、相場動向などについて、WEB・新聞・雑誌・テレビ等にコメントを発信。Twitterアカウント:@kandaTakuya