世界中で一大ムーブメントを巻き起こし、日本でも話題を振りまいている「ポケモンGO」。位置情報を使ったアプリという特性上、どうしてもゲーム性以外の部分で語られることが多いが、純粋にゲームとして見たとき、どう評価されるのだろうか。
これだけ多くの人を惹きつけるその理由は、単に「ポケモン」が世界的な人気コンテンツだからというだけではないはずだ。ポケモンGOのゲームとしての面白さは、どこにあるのだろう。
かつて任天堂で「ピクミン」や「WiiFit」といったタイトルに携わり、現在はエンタースフィア代表取締役社長として、さまざまなタイトルを開発してきた実績を持つクリエイター、岡本基氏に聞いた。
ポケモンGOのユーザー層は「普段ゲームをやっていない人」
――ポケモンGOが大ヒットしています。ユーザーも幅広く、普段ゲームをやらない層も取り込んでいる印象があります。
岡本: というよりも、ポケモンGOのユーザー層のメインは、普段ゲームをやっていない人たちでしょうね。国内でもアクティブユーザーは一千万人はいるでしょう。その大半はライト層だと思いますよ。家でじっくりゲームをやり込みたい層とは違うところに刺さっているんじゃないでしょうか。友だちや恋人と一緒に外で遊ぶのが楽しいゲームですからね。
――ゲームとしては比較的シンプルに思えますが、ライト層を意識してのことでしょうか。
岡本: それはあるでしょう。ポケモンファンから見るといろいろな意見があると思いますが、私はいい落とし所で出してきたなという印象を持っています。あまりゲーム性が深すぎるとライトユーザーはついていけません。
別の要因として、開発期間が短かったのもあるでしょう。実際に開発がスタートしたのは、昨年の秋くらいなのではと思います。そして今年の春にはもうフィールドテストが始まっていたようですから、開発期間は実質半年程度でしょうか。その期間では深い部分までは作りこむのは難しい。しかし、それでもグランドデザインは非常にしっかりと骨太に設計されていると感じます。
「場所」と「距離」を使った巧妙なゲームデザイン
――グランドデザインといいますと?
岡本: 一番大事なのはスマートフォンを持って街を歩いていればポケモンが出てくるという部分です。「自分もサトシになれる!」という感覚が得られることがこのゲームの肝なんです。株式会社ポケモンもそこに力を入れて監修しているのでしょう。
一方でゲーム性に関しては、Nianticのいいところを汲んで、細かいところまではあえて見ないようにしているんだと思います。本当は、ゲームの作り手としては細かい部分までどうしても見てしまうんですよ。エフェクトの細かい出方とか。
でも、モンスターボールの動きは比較的、リアルに作ってますよね、ちょっとした物理計算を入れて。捕まえるシーケンスは重視されたのかな、と思います。
――なぜもっと開発期間を設けて作りこまなかったのでしょうか。
岡本: 鮮度が大事だったからでしょう。位置情報を使ったポケモンという目新しさで勝負しているわけで、(開発が)長くなれば似たようなものが先に出てくる可能性もあります。だからスピードを重視する必要があった。かといってゲームとして不出来ということはなく、先程も言ったようにゲームの骨格となる設計は非常にしっかりしています。
また、ポケモンGOは、「昆虫採集」という初代ポケモンのコンセプトの1つをより突き詰めたゲームになっています。初代ポケモンは制作した田尻智さんが子供時代に東京町田市で昆虫採集した記憶を活かした企画です。それと同時にRPGでもあり、ポケモンを捕まえる前に戦闘が入ります。ですが、ポケモンGOにその要素はありません。昆虫採集では、虫取りの前に戦う必要は無いですよね。
戦闘が無くなったことで、ゲーム性は減っています。しかし、現実の世界を舞台にした事で、ポケモンの出やすい場所を情報交換したり、現実の街中を探し歩く遊びが大幅に強化されています。「昆虫採集」という体験はゲームの中でポケモン本編以上に面白く仕上がっています。
細かい部分の完成度は多少荒い所もありますが、トータルのゲーム体験はよく出来ています。