公正取引委員会は2日、MVNOの新規参入促進の観点から携帯電話市場での取引慣行についてヒアリングを行い、「携帯電話市場における競争政策上の課題について」という報告書を公開した。非常に厳しい内容だが、一方で「なぜこのタイミングで」という疑問もある。果たして業界全体を改革する決定打になるのだろうか?
既存の販売方法を否定?
既報の通り、公正取引委員会による報告書「携帯電話市場における競争政策上の課題について」は、総務省タスクフォースの提言を踏まえつつ、より厳しい内容となっている。
政策上の課題として、独禁法に触れる恐れのある行為として以下を挙げている。
・通話料と端末代が一体化していること ・SIMロックをかけること ・2年縛りの解約金が不当に高価な場合(ただし具体的な金額は提示していない)、競争政策の観点から望ましくない |
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また、MNOや端末メーカーに対しても、以下の行為を問題視している。
・ユーザーの契約情報などの情報データベース(HLR/HSS)を不当に厳しい条件をつけずMVNOに開放する ・端末の割賦販売で、MNOが総額を固定することにより販売代理店の販売価格が実質的に拘束される場合 ・MNOおよび端末メーカーが販売店に対して価格や販売方法、広告・表示方法を拘束すること ・MNOや端末メーカーが不当に高価に中古端末を下取りしたり、引き取った中古端末を国内で再流通させることを制限する |
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加えて、OSの開発メーカー(AppleおよびGoogle)に対しても、以下のことを、独禁法上の問題となるとしている。
・端末メーカーやMNOに対し、競合するOSやアプリケーションの開発やプリインストールを禁止する ・自社製アプリをデフォルトに指定する |
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端末メーカーやOSのメーカー(事実上Appleの狙い撃ち?)にまで言及したのが新しい点であり、単にキャリア(MNO)の問題から、より広く携帯電話業界全体をターゲットにした内容だ。
本当にこれって効果があるの?
今回の公正取引委員会の報告書に先んじて発表された総務省のタスクフォースは、発表と同時に大きな反響を引き起こし、それに対応するかたちでMNP奨励金などが削減された結果、一時的にスマートフォン市場、特にMNOによる販売がガタ落ちし、官製不況に陥ったとする批判まで現れた。
しかし蓋を開けてみれば、販売台数自体は一時的に落ちたものの、「実質ゼロ円」は姿を変えて再び登場し、数回線まとめて加入すれば数十万円にも達するという高額な新規/MNP奨励金も残ったままだ。MVNOやSIMフリースマートフォンの販売には一定の効果があったようだが、MNO各社の収益は相変わらず増収増益であり、結果的にMNOを使い続けたいユーザーが損をしただけでは? という内容にとどまっていたのが事実だ。
今回の公正取引委員会の報告書は、総務省タスクフォースよりも細かな点まで指摘しており、この数年の販売習慣そのものを否定するような内容だ。これがすべて反映されれば、タスクフォースよりも大きな影響力を示すことが予想される。ただし、商習慣そのものはスマートフォンの登場以前、10年以上前から続いてきたことでもあり、むしろ、それではこれまでなぜ黙っていたのか、という気もする。またMNO各社や端末メーカーも知恵を絞って規制の隙間を突いてくるであろうことから、結果としてユーザーだけが不利益を被ることにならないのかが気がかりだ。
HLR/HSSの開放やプリインストールアプリの制限、割賦販売の総額固定など、本当にそれは喫緊の問題なのか? というような内容もある。HLR/HSSについては確かにMVNOにとってホットな話題ながら、実際にMVNO各社の担当者に話を聞いてみると、積極的にアクセスしたい、というところは案外少ないのだ(これまでHLR/HSSを自社で設置・管理する必要があったためかもしれないが)。
割賦販売の総額固定にしても、不人気機種の在庫解消で「実質ゼロ円」どころか「端末代無料」を大きく掲げて販売している代理店が多かったことを思うと、あまり現実を見ていないように思う。プリインストールアプリについては、むしろサードパーティ製アプリやブックマークのインストールを禁止してくれ、余計なことを言うな、と思うユーザーのほうが多いのではないだろうか。
何より、総務省にせよ公正取引委員会にせよ、MNPや機種変更時の問題ばかりを指摘して、ユーザーにとっては肝心の月々の通信料にまで話題が到達していないのはどうしてなのだろうか。いちユーザーとしては、MNO各社が毎年巨額の利益を挙げ続けていながら「なぜ通信費を下げられないのか」をもっとシンプルに追求してほしい。「月々の利用料金を原資として」というのであれば、すべてのユーザーにとって影響があるのは、まさに通信料そのものなのだ。MVNOのように格安にせよというつもりはないが、MNOが見直さねばならないのはむしろこちらではないのか。そう思われてならない。