アップルは、Webサイトにて「日本におけるAppleの雇用創出」と題したページを公開した。それによれば、同社が日本で創出または、支援した雇用の数は71万5,000に及ぶという。
「日本におけるAppleの雇用創出」と題されたアップルのWebページ |
この数字はアップル社内や、支援する事業の雇用だけでなく、iOSアプリの開発者、ソフトウェアエンジニア、企業家のコミュニティなども含まれている。これらの職業の多くは、8年前にApp Storeを起ち上げる前は存在していなかった。内訳としては、iOSとApp Storeのエコシステム関連内での雇用者数が44万5,000、Appleの支出と成長の結果、他企業で創出された雇用者数が26万9,000、日本国内のアップルの従業員数は2,900という数字になっている。
アップルは、彼らにとって重要なサプライヤー、長く取り引きを行っているサプライヤーの幾つかは日本の企業であるとコメントしている。昨年度の日本のサプライヤーに対する支出額は300億ドルを越え、それにより、日本中で数十万の雇用を支援した。前述のアップル社外で創出された雇用者数とあわせ、これの数字は決して少なくない。ストレートに言ってしまうと、アップルは日本の雇用創出に大きく貢献してる。恐らく経済活動にも少なからず寄与しているという数字が出てくることだろう。
同ページには、App Storeでアプリを販売しているデベロッパのコメントも掲載されている。ここでは、マイナビニュースでも紹介した「FitPort ヘルス&フィットネスダッシュボード」を提供するFlask LLPと「Zen Brush 2」などで知られるPSOFTの2社について、改めてインタビュー時の発言を紹介しておきたい。
──FitPortを出したら、本当にエライことになって。今まで見たことのない問合せもきて、それがほとんど英語! みたいな。二人だけなので、すごい返信大変だったんですけど。それでも、もう、震えながら対応して、見たこともないところやメディアから連絡がきて。成功を一度味わったことで「またあの夢を」みたいな力が出てくるきっかけになりました。 (Flask LLP プログラマー・小川秀子氏/デザイナー・堀内敬子氏)
──iPhoneが出て、開発環境があって、App storeというものの登場がいちばん大きかったです。作ったものを全世界に配信できてしまうのが、すごいと。WindowsとかMacというプラットフォームと同じくらいの規模感のものが出てきたイメージがあって。それって、何年、何十年に一度くらいの話じゃないですか? (PSOFT マネージャー・千葉哲也氏)
ここから伺えることは、アップルのエコシステムに入っていくということは、すなわち、ワールドワイドな市場でビジネスが展開できるようになるということだ。アップルの当該Webページでは、日本のデベロッパ数は53万2,000で、App Storeでの収益は96億ドルであると報告している。全世界での売り上げが500億ドルという話なので、実に20%近くを稼ぎ出しているということになる。この数字は、ドメスティックなマーケット相手だけでは到達が相当困難なはずだ。アップルが齎したイノベーションとテクノロジー無しには、ちょっと考えられない数字と言えよう。
App Storeで成功をおさめるのに、拠点を構える地域や、企業としての規模は直接関係しない。例えば、PSOFTは、従業員数もさほど大きくない(……と言ったら、非常に失礼ではあるが)上、拠点としているのは東京でなく、仙台だ。しかも、東日本大震災という未曾有の災害に見舞われたにも関わらず、安定してビジネスが継続できたという。それも、収益の柱となっていたアプリが海外を中心に人気を集めていたからで、ダウンロードが途切れることがなかったからだ。Flask LLPに至っては、従業員はプログラマーの小川氏とデザイナーの堀内氏の二名のみ。従業員数や資本力ではなく、アイディアと実力次第でチャンスを引き寄せられるのが、App Storeでのビジネスなのである。
では、アップル自体の日本の雇用に関してはどうだろう? 従業員数は先ほど2,900とお伝えしたが、このうち、約600人がAppleCareをサポートするアドバイザーとカスタマーサービスに従事しているという。われわれが利用している全国8店舗のApple Storeでは、平均100名のスタッフが働いているが、そのほとんどが正規採用の従業員だとのことだ。非正規雇用のスタッフを増やして搾取するようなことは決してしないのである。また、Apple Storeが店舗を構えている場所にも着目すべきだろう。どこも商業地域に立地しており、隣接する他業者の店舗や施設とともに経済圏を形成している。具体的な数字は示されていないが、その経済効果を無視するわけにはいかないはずだ。
最後にサプライヤーについて。アップル製品の最も重要な部品の幾つかは日本で製造されている。ファインセラミックスのメーカーとして創業し、電子機器などを手がける京セラをはじめ、iPhoneのカメラの部品を製造しているカンタツ、インク製造業者として日本で最も長い歴史を持つ帝国インキ製造、革新的なコーティング技術で知られるカシューと、業界を牽引する企業と密接な関係を結んでいる。公表はされていないが、Apple Watchの「ウーブンナイロン」バンドで採用された、4層構造のナイロン素材に応用されている技術は、日本の老舗の小さな織物工房に依るものだと言われている。ここでも規模の大小を問わず、さまざまな業態のさまざまな企業が参画しているのだ。技術とアイディアがあればまた、排除されることなく僥倖に授かれる機会が巡ってくるのである。
見てきた通り、アップルは日本の市場において、多大な経済効果と雇用を生んできた。神奈川県横浜市でのテクニカル・デベロップメント・センター建設も着々と進んでおり、ここでもまた新たな雇用と経済効果を生んでくれるはずだ。日本でのビジネス展開も始まってから30年以上の月日が流れた。サードパーティはもちろん、さまざまな業界に対し、さまざまなビジネスモデルを提供してきたが、その影響はまた、さまざまな形で顕在化しているのである。