全19作品がそろった2016年の春ドラマ。今回もドラマ解説者の木村隆志が、全作品の初回放送をウォッチ。俳優名や視聴率など「業界のしがらみを無視!」したガチンコでオススメ作品を探っていく。

別記事(「2016年夏ドラマ、傾向分析&オススメ5作発表! - リオ五輪を控える「逆境の夏」にイチかバチかの大勝負」)において、夏ドラマの主な傾向を [1]逆境に燃えるドラマ班 [2]「イチかバチか」の大勝負 [3]演技派主演vs二世俳優 の3つと分析。

おすすめドラマとして、『仰げば尊し』(TBS系 日曜21時)、『HOPE~期待ゼロの新入社員~』(フジテレビ系 日曜21時)、『時をかける少女』(日本テレビ系 土曜21時)、『グ・ラ・メ!~総理の料理番~』(テレビ朝日系 金曜23時15分)、『そして、誰もいなくなった』(日本テレビ系 日曜22時30分)の5本を選んだ。

本記事では、それらの作品を含む、今クール全作品のひと言コメントと採点(3点満点)を紹介していく。

桐谷美玲

『好きな人がいること』 月曜21時~ フジテレビ系

出演者:桐谷美玲、山崎賢人、三浦翔平、野村周平ほか
寸評:キャスト、脚本、演出ともに、少女マンガの実写版映画をそのまま連ドラに直輸入。若年層の支持を集めるなど一定の効果を収めている反面、アレルギー反応を示す人も多い。月9の恋愛ドラマは老若男女が夢中になれるものだったが、昨年の『恋仲』以上に割り切ったか。
採点:【脚本☆ 演出☆☆ キャスト☆☆ 期待度☆】

波瑠

『ON 異常犯罪捜査官・藤堂比奈子』 火曜22時~ フジテレビ系

出演者:波瑠、横山裕、渡部篤郎、林遣都ほか
寸評:出演を重ねるたびにオーラを増す波瑠に、異常犯罪者をぶつけることで、鮮やかなコントラストを映し出している。犯人探しや謎解きはほとんどなく、ヒロインが異常犯罪者のもとへ単独で乗り込むハラハラのサスペンスと、グロテスクな死体などのホラーがメイン。
採点:【脚本☆☆ 演出☆☆☆ キャスト☆☆ 期待度☆☆】

武井咲

『せいせいするほど、愛してる』 火曜22時~ TBS系

出演者:武井咲、滝沢秀明、中村蒼ほか
寸評:不倫がテーマと思いきや、胸キュン狙いなのか、笑い狙いなのか、ビックリ演出を連発。いずれにしても話題を呼んでいるのだから、それなりの成功を収めているのかもしれない。謎のエアギターを押し出していることも含め、“お笑い恋愛ドラマ”という新ジャンル誕生か。
採点:【脚本☆ 演出☆☆ キャスト☆☆ 期待度☆】

北大路欣也

『刑事7人』 水曜21時~ テレビ朝日系

出演者:東山紀之、高嶋政宏、北大路欣也ほか
寸評:シリーズ第2弾。前シリーズは、個性重視のキャラ演出でゆるいムードだったが、今作はシリアスに一変。いまだ豪華キャストが機能しているとは言い難いが、同枠の刑事ドラマファンは温かく安泰か。初回は幸か不幸か、現実世界とリンクするような殺人事件だった。
採点:【脚本☆☆ 演出☆☆ キャスト☆☆ 期待度☆☆】

北川景子

『家売るオンナ』 水曜22時~ 日本テレビ系

出演者:北川景子、千葉雄大、仲村トオルほか
寸評:変人のヒロインは同枠の定番だけに、すんなりフィット。明快な一話完結フォーマットも、効果音や風を吹かせるポップな演出も、五輪の影響を受ける今年の夏には合いそう。気軽に見られ、安定感もあるが、変人の要素を除くと「家を買うお金持ちのエピソード集」という感も。
採点:【脚本☆☆ 演出☆☆ キャスト☆☆☆ 期待度☆☆】

松井珠理奈

『死幣―DEATH CASH―』 水曜24時10分~ TBS系

出演者:松井珠理奈、戸次重幸、清原果耶ほか
寸評:「アイドル×ホラー」の王道コンセプトに忠実な作りで、恐怖におののき、友人の死に悲しむ松井の姿が見どころとなっている。若手の期待株を集めたが、川栄李奈、吉岡里帆、中村ゆりからの見せ場が少ないのが何とも残念。中盤でマンネリを避ける大きな衝撃がほしい。
採点:【脚本☆ 演出☆☆ キャスト☆☆ 期待度☆☆】

高島礼子

『女たちの特捜最前線』 木曜20時~ テレビ朝日系

出演者:高島礼子、宮崎美子、高畑淳子ほか
寸評:放送前の思わぬ逆風も何のその、2時間ドラマ時代のテイストを守ったまま無事に放送。井戸端会議から事件を解決する脱力感が、20時代にハマっているし、活劇要素こそないがテイストは『三匹のおっさん』と同じ。週替わりで出演する同年代の熟女優ゲストも楽しみ。
採点:【脚本☆ 演出☆☆ キャスト☆☆ 期待度☆☆】

尾野真千子

『はじめまして、愛しています。』 木曜21時~ テレビ朝日系

出演者:尾野真千子、江口洋介、速水もこみちほか
寸評:脚本が遊川和彦だけに「一筋縄ではいかない」と思いきや、特別養子縁組というテーマがオーソドックスに描かれている。ただそこは遊川脚本、「いつどこで破壊の美学が働くのか」油断はできない。ヒロインのピアノに反応する子役との関係性に秘めたものがありそう。
採点:【脚本☆☆ 演出☆☆ キャスト☆☆ 期待度☆☆】

松嶋菜々子

『営業部長 吉良奈津子』 木曜22時~ フジテレビ系

出演者:松嶋菜々子、松田龍平、DAIGOほか
寸評:ひさびさのヒロインとなる松嶋菜々子は、華やかさや凛々しさこそ健在だが、「産後復帰」「仕事と家庭の両立」というテーマは既視感が強い。松田のピリリとした空気感と、「女の敵をやらせたら天下一品」の伊藤歩がいいアクセントになれば、松嶋の輝きがさらに増しそう。
採点:【脚本☆☆ 演出☆ キャスト☆☆☆ 期待度☆☆】

三上博史

『遺産相続弁護士 柿崎真一』 木曜23時59分~ 日本テレビ系

出演者:三上博史、森川葵、酒井若菜ほか
寸評:お金をめぐる展開を軸に、ドタバタやセクシーを盛り込んだ深夜枠らしい1話完結ドラマ。悪人ばかりだが、同時期放送の『闇金ウシジマくん』のような怖さはなく、三上と森川のコメディ+人情がメイン。演技のディテールや美術の色彩にも、お金の臭いがプンプン漂う。
採点:【脚本☆☆ 演出☆☆ キャスト☆☆ 期待度☆☆】

伊原剛志

『ヤッさん~築地発!おいしい事件簿』 金曜20時~ テレビ東京系

出演者:伊原剛志、柄本佑、里見浩太朗ほか
寸評:「まさにテレ東」のグルメ+事件モノ。美食あり、人情あり、勧善懲悪ありで、家族でほっこり見られる。「宿なし、職なし、無一文」の主人公と弟子の凸凹コンビは初回から好相性で、週替わりのマドンナも楽しみ。市場移転を控えた今だからこそ、放送する価値がある。
採点:【脚本☆ 演出☆☆ キャスト☆☆ 期待度☆☆】

向井理

『神の舌を持つ男』 金曜22時~ TBS系

出演者:向井理、木村文乃、佐藤二郎ほか
寸評:題材、カメラワーク、各所ロケ、小ネタなど、堤幸彦らしさ全開だが、ここ数年の苦戦を象徴するようなスタートに。向井と木村が変わり者で、佐藤が普通という図式は新しいが、遊び方がハジけ切れず、こじんまりとしている感がある。謎解きや伏線が視聴者にバレバレか。
採点:【脚本☆ 演出☆ キャスト☆☆ 期待度☆】

剛力彩芽

『グ・ラ・メ!~総理の料理番~』 金曜23時15分~ テレビ朝日系

出演者:剛力彩芽、滝藤賢一、小日向文世ほか
寸評:普通のグルメドラマではなく、総理官邸ならではの思惑が飛び交う見応えたっぷりの作品。焼き石のアイディアこそ凡庸だったが、メッセージを込めた料理は美しい。繊細なカット割りやカメラワーク、エンディングの爽快なダンスなど、細部に渡る創意工夫がうかがえる。
採点:【脚本☆☆ 演出☆☆☆ キャスト☆☆ 期待度☆☆☆】

生瀬勝久

『侠飯~おとこめし~』 金曜24時12分~ テレビ東京系

出演者:生瀬勝久、柄本時生、内田理央ほか
寸評:ヤクザが淡々と料理する姿が何ともシュールで、ひさびさに生瀬の顔と声のカッコよさが堪能できる。残り物や缶詰を使った「地味でも美味い料理」が深夜に映える。脚本・演出・演技を徹底的に引き算した『孤独のグルメ』よりも、好き嫌いの差が出るのは仕方なし。
採点:【脚本☆☆ 演出☆☆☆ キャスト☆☆ 期待度☆☆】

黒島結菜

『時をかける少女』 土曜21時~ 日本テレビ系

出演者:黒島結菜、菊池風磨、竹内涼真ほか
寸評:ひと夏の恋を描いた甘酸っぱさと切なさは健在。現代風の描写は抑えめだが、タイムリープを増やし、未来人の視点を入れるなど、若年層に飽きさせない作りに。日本のスタンダードと言える作品だけに受け継ぐことに意義があり、黒島が見せる自然体の演技がまぶしい。
採点:【脚本☆☆ 演出☆☆☆ キャスト☆☆☆ 期待度☆☆☆】

欅坂46

『徳山大五郎を誰が殺したか』 土曜0時20分~ テレビ東京系

出演者:欅坂46、江口のりこ、嶋田久作ほか
寸評:テレビ東京とAKBグループのつながりは深いとは言え、デビュー1年に満たない欅坂46の抜てきには驚かされた。ただ、メンバーの大量出演は、「熱心なファン以外、顔の区別がつかない」現時点では苦しい。物語も遅々として進まず、深夜だけにわかりやすい衝撃が必要。
採点:【脚本☆ 演出☆ キャスト☆ 期待度☆】

寺尾聰

『仰げば尊し』 日曜21時~ TBS系

出演者:寺尾聰、多部未華子、石坂浩二ほか
寸評:まずほとんど見かけなくなった学園モノに挑む心意気に拍手。69歳の名優・寺尾に、可能性あふれる逸材をぶつけたキャスティングも、連ドラとして成長が追いやすい吹奏楽というテーマ選びも素晴らしい。過剰な暴力シーンこそ気になるが、クライマックスの感動は鉄板。
採点:【脚本☆☆☆ 演出☆☆☆ キャスト☆☆☆ 期待度☆☆☆】

山本美月

『HOPE~期待ゼロの新入社員~』 日曜21時~ フジテレビ系

出演者:中島裕翔、遠藤憲一、山本美月ほか
寸評:ビジネスシーンのリアルティがあまりないが、若者の人間描写は丁寧かつ繊細。上司や同期との何気ないやり取りやセリフの1つ1つに、共感と応援をうながす要素が詰まっている。韓国ドラマのプロットが良質なだけに、鍵を握るのはどれだけ脚本・演出を詰められるか。
採点:【脚本☆☆ 演出☆☆☆ キャスト☆☆☆ 期待度☆☆☆】

藤原竜也

『そして、誰もいなくなった』 日曜22時30分~ 日本テレビ系

出演者:藤原竜也、玉山鉄二、二階堂ふみほか
寸評:「登場人物が全員敵!?」の設定で、序盤からエンジン全開。追い詰められる主人公は藤原のハマリ役であり、絶体絶命の危機が迫るサスペンスは、映画『カイジ』『インシテミル』と似ているが、ミステリーは連ドラの分だけ難解に。どこまで飽きさせずに引っ張れるか。
採点:【脚本☆☆☆ 演出☆☆ キャスト☆☆ 期待度☆☆】

■木村隆志
コラムニスト、芸能・テレビ・ドラマ解説者、タレントインタビュアー。雑誌やウェブに月20~25本のコラムを提供するほか、『新・週刊フジテレビ批評』『TBSレビュー』などの批評番組にも出演。取材歴2000人超のタレント専門インタビュアーでもある。1日のテレビ視聴は20時間(同時視聴含む)を超え、ドラマも毎クール全作品を視聴。著書に『トップ・インタビュアーの「聴き技」84』など。