残念ながら筆者は乙女ではない。ではないが、花畑の側で生まれ育ったため、花に対する思い入れは人一倍大きい。だからこそ見ておきたいと思ったのが、北海道・富良野のラベンダー畑だ。先に結論を言う。それは想像以上の風景だった。

この風景を北海道の風を受けながら見れる幸せは格別だ

今シーズンはもうすぐ終わり

今回紹介する「ファーム富田」は、富良野のラベンダー畑の代名詞的存在となっている。ラベンダーは品種によって見頃の時期が異なり、早咲きは6月下旬から開花が始まる。富良野市内で最も作付面積が広いラベンダー「おかむらさき」は7月中旬頃が最盛期であり、8月になると株の保存のために刈り取りが始まる畑もある。実際、ファーム富田から車で約7分のところにあるラベンダーイーストは、2016年7月27日にラベンダー刈り取り作業を開始した。

そして、7月28日の富良野の空は雨。ファーム富田は2015年、7月31日から刈り取りが入ったため、2016年も天候次第で刈り取りが早まりそうとのこと。今週末も満開のラベンダーが待ち受けているかは空のみぞ知る、というところだろう。

この風景ももうすぐ見納め

筆者が訪れたのは7月24日。北海道ならではの、湿気の少ないカラッとした気持ちいい青空は、まさに"ラベンダー日和"だ。公共機関を使うなら、JR富良野線の臨時列車「富良野・美瑛ノロッコ号」のみが停車する6月上旬~10月中旬限定の臨時駅「ラベンダー畑駅」(一部期間は普通列車も停車)から徒歩約7分だが、ほとんどの人は車で訪れている。ファーム富田には無料の大型駐車場があるが、シーズンともなると渋滞は避けられない。とは言え、渋滞中も一面のラベンダー畑を遠目で見ることができるので、焦らず車の流れを待とう。

「ラベンダー畑を守りたい」

なぜ、ファーム富田が富良野のラベンダーの代名詞的存在なのか。それは、面積12万平方メートルの広大な敷地内に7つの花畑が抱えているという規模の大きさはもちろんだが、昭和51年(1976)に旧国鉄のカレンダーに使用されたことで、"富良野=ラベンダー"を広くイメージつけるきっかけとなったことも関係している。

旧国鉄のカレンダーの舞台は園内の「トラディショナルラベンダー畑」

ファーム富田自身もこの時、合成香料の技術進歩と海外からの安価な輸入香料とで、ラベンダーオイルでの経営が難しくなるという運営危機の最中にいた。富良野から次々とラベンダー畑が消えていくのを横目に見ながら、「ラベンダー畑を守りたい」という想いから独自商品を開発。商品開発とともに施設を拡張させることで、現在のように世界からも多くの観光客が訪れる一大観光スポットに成長した。入場無料というところにも、ファーム富田のラベンダー愛を感じる。

園内には畑のほか、ショップやカフェもある

敷地内の畑は5月下旬~10月上旬まで、色鮮やかに季節の花々で埋め尽くされる。シーズン外となる冬は雪で覆われるが、グリーンハウスでラベンダーやゼラニウム、ゴールドクレストなどが楽しめるようになっている。

びっくりする花はラベンダーだけじゃない

では、7つの畑を巡ってみよう。富良野駅方面から車で向かう際、まず目に飛び込んでくるのは「彩りの畑」だろう。約4万平方メートルと敷地内最大の畑には、紫のラベンダーのみならず、白のカスミソウ、赤のポピーなど、ゆるやかな丘をキャンパスにして色とりどりの花が待ち構えている。その彩りの畑の上には、「森の彩りの畑」がある。畑の奥には針葉樹が広がっており、訪れた時はレッドやピンクのポピーが印象的な風景を生み出していた。

園内最大の広さをもつ「彩りの畑」

「森の彩りの畑」は針葉樹とともに

ラベンダー一つひとつはまだそれほど豊かな香りを放っていないものの、これだけの花が咲き誇っているのだ。周辺にはふわりと香りが漂っている。ラベンダーばかりに目が行きがちだが、もちろん、そのほかの花も魅力的だ。特に注目してほしいのはカスミソウ。一つひとつの花が大きく、「カスミソウってこんな花だったっけ? 」と思ってしまうほど。北海道の広大な大地で育つと、花もまた個性を持つのかもしれない。

小さく可憐な花のカスミソウも北海道ではこんなに大きく咲く

ポピーは畑の中で一際鮮やかな色を放つ

森の彩りの畑の中腹から彩りの畑を見下ろす

畑を北に進み、「トラディショナルラベンダー畑」へ。昭和33年(1958)から続くファーム富田の原点とも言えるラベンダー畑で、旧国鉄のカレンダーで紹介されたのもこの畑だ。約1万平方メートルの斜面の端から端までラベンダーが咲き乱れており、心ゆくまでラベンダーをたっぷり楽しめる。

「トラディショナルラベンダー畑」はファーム富田の原点

濃い紫色を放つラベンダー「濃紫早咲」は主に観賞用として栽培されている

春には春の、秋には秋の花がある

道路を挟んだ反対側には、「秋の彩りの畑」「春の彩りの畑」「倖(さきわい)の畑」「花人の畑」が設けられている。秋の彩りの畑は霜が降りる10月上旬までと、園内で最も遅くまで花を楽しめる畑であり、これから見頃を迎えるエリアとなる。訪れた時には色とりどりのキンギョソウが出迎えてくれた。一方の春の彩りの畑は、アイスランドポピーやオリエンタルポピーがファーム富田のシーズン初の"顔"として咲き誇る。

「秋の彩りの畑」に咲くキンギョソウ

すっきりとした青空が広がっている

JR富良野線を行く列車と花畑

その2つの畑の向かいには倖の畑があり、約1万2,000平方メートルの敷地内に園内にある全4種のラベンダーが敷き詰められている。その品種によって色が微妙に違うため、よーく見てみると淡いグラデーションになっているようだが……一面のラベンダーでテンションが上がってしまっていると、なかなか冷静に判断できなくなってしまう。畑と畑の間の細い通路に立って遠くから写真を撮ると、"金色の野に降りたつべし"ならぬ"紫色の野に降りたつべし"なジブリ風景を激写できる。

左右に開けた「倖(さきわい)の畑」

"紫色の野に降りたつべし"ごっこもできる

最後は花人の畑へ。春~秋と長い期間に亘って花が咲き継ぐエリアになっており、ぼってりと大きな花をつけたオレンジやイエローのアメリカンマリーゴールドが印象的だった。「ちょっと変わったラベンダーがあるな」と思ったら、よく見るとサルビアだったということも。本当にいろいろな顔を見せてくれる畑だ。

「花人の畑」にはパープルのサルビアも咲いている

大きな花をつけたアメリカンマリーゴールドも印象的

春~秋、さまざまな花でもてなしてくれる

ラベンダーは食べてもよし!

もちろん、グルメもお忘れなく。ラベンダーの季節にはぜひとも「ラベンダーソフトクリーム」(コーン税込300円/カップ税込250円)を。特製のラベンダーエキスが入ったソフトクリームは香りはもちろん、濃厚なミルクが魅力的だ。他にも、ラベンダー花粒入りの生クリーム&カスタードクリーム入りの「ラベンダー生シュークリーム」(税込250円)、カルピスとラベンダーの風味が楽しめる「ラベンダーカルピスゼリー」(税込250円)、ラベンダーエキスと道産素材で作った「ラベンダーはちみつプリン」(定価は税込320円、取材時はセールで税込280円)等がそろう。

「ラベンダーソフトクリーム」(コーン税込300円/カップ税込250円)はラベンダーに負けない鮮やかな

さまざまなラベンダースイーツでおなかいっぱいになれるかも!?

ファーム富田の敷地外にはなるが、隣接した「とみたメロンハウス」ではその場で食べられる「カットメロン」(税込300円~)なども販売されている。なお、こちらの商品はとみたメロンハウスの商品であり、ファーム富田には敷地外で購入した飲食物は持ち込み不可なのでご注意を。

「カットメロン」(税込300円)の魅力も捨てがたい。こちらはとみたメロンハウスの商品のため、ファーム富田への持ち込みはできない

こんな壮大な風景を堪能していると、「このラベンダー、家族にもプレゼントしてあげたいな」と思う人も多いだろう。畑の花は摘むことができないが、敷地内にはファーム富田のオリジナル商品をそろえたショップとカフェがあり、さまざまなラベンダーグッズが用意されている。

「ラベンダーの切花」(1束税別150円/3束税別400円)は季節限定

期間限定の「ラベンダーの切花」(1束税別150円/3束税別400円)は値段も手頃でいいのだが、すぐにドライフラワーにしないと花が落ちてしまうため、遠方の人へのお土産には向かないとのこと。その場合は、すでにドライフラワーになっているものを選ぶといいだろう。特にオススメなのが箱入りタイプ(税別400円)。箱には住所やメッセージなどが記入できるようになっており、120円切手を貼ってそのまま投函。と言ってもポストには入らないサイズなので、ショップの窓口でも預かってもらえる。

そのまま郵便できる箱入りタイプ(税別400円)はナイスアイデア

筆者が訪れた際、畑を耕す人や、成長を促すために終わった花を一つひとつ摘んでいく人の姿を見かけた。こうした人々の日々の汗が、ファーム富田の、そして富良野=ラベンダーの風景を作り上げていることを実感した。もしかしたら今週にも、ファーム富田のラベンダーシーズンが終わってしまうかもしれないが、その季節ならではの花々が訪れる人を出迎えてくれる。写真ではなかなか伝わらない北海道の空気と香りを味わうためにも、一度と言わず何度でも、足を運んでいただければと思う。

この人たちの汗が、花を一層美しくしてくれる

園内を走るバイクもラベンダーカラー

※記事中の価格・情報は2016年7月取材時のもの