全米天才児協会会員の石角友愛さんにインタビュー

皆さんは"天才"という言葉にどのようなイメージをお持ちだろうか。自分たちとは程遠い、関係のないことのようにも思えるが、実はうまれながらに特殊な才能を持つ"ギフテッド"と呼ばれる人たちは、人口の6~10%ほどいると言われている(アメリカの統計による)。

ギフテッドの発掘と育成に力を入れているアメリカでは、そのための団体や教育機関が数多く存在する。また、教育全般が"全ての子どもに才能がある"という前提のもと、成り立っているというのだ。

アメリカのギフテッド教育から日本が学べることは何か。さらに、親たちができることは何なのか。今回は、全米天才児協会の会員であり、シリコンバレーで2人の子どもを育てる石角友愛さんにインタビュー。このほど出版した著書『才能の見つけ方 天才の育て方』(1,500円・税別/文藝春秋)の内容をベースに、子どもの才能を発見し育てるノウハウについて教えてもらった。

苦手なことがわかれば得意なことも分かる

――子どもの才能の捉え方について、アメリカと日本ではどのように異なりますか

アメリカの場合、うまれながらにして全ての子どもに得意・不得意があり、才能があるという前提で、親が子育てをしているという印象です。日本では"才能"と言うと、とてもハードルの高い高尚なものに思えるかもしれませんが、アメリカではより幅広く"得意なこと"を才能と捉えています。

本を読むのが好きな子もいれば、パズルが好きな子もいる。こういう得意なことを、子どもたちはうまれながらに持っています。言い方を変えると逆に苦手なこともあるわけです。その二面性を理解したうえで、子どもの好きなことや得意なこと、集中力が発揮できて結果につながるようなことを、親が見つけて伸ばす文化があると思います。

――苦手なことを理解するのも大切なのですね

1つのコインの裏と表なので、もちろん苦手なことも見ています。苦手なことが分かれば、好きなことも逆説的に分かるからです。アメリカの友人と話していても、「うちの娘は読み書きがとても得意だが、計算が全くできない。息子は数字やロジック、パズルは大好きだけれど絵が苦手」という会話が普通に出てきます。親たちはその2つの側面を理解して、幼稚園や小学校の放課後、子どもにどのような習い事をさせるかを決めるのです。

お友達同士で同じ習い事をするというケースもありますが、基本的にはみんなバラバラです。その子がやりたいことや伸ばしたい力を育める場所、結果的に続くかどうかも大切にして選んでいます。

――この考え方は家庭だけでなく学校でも同じですか

例えば、全科目の成績の平均値をもとに成績を評価する方法もあります。しかし入学試験などにおいて、それだけで判断することはありません。エッセーやインタビューを通して、その生徒のやりたいことや、その学校に向いているかどうかが審査され、進学先が決まるという側面が大きいです。

特に算数についてよく言われることですが、日本の公教育は、アメリカのそれと比べると水準が高いようです。しかし、個々の生徒の苦手な分野をどうやって補うか、得意な分野をどうやって伸ばすかという視点を、アメリカではより重視しているように思います。その延長線上で、ギフテッドの発掘プログラムを国が推進しているのです。

親が質問し返すことの大切さ

――日本とアメリカの教育環境はかなり違うと思うのですが、日本で子どもの才能を見つけるためにできることはありますか

ギフテッド教育の大半が、親が子どもと接している時間に行われる部分が大きいので、親の取り組み次第でトライできることはあります。放課後や週末、寝る前の時間を使い、日々の会話を大切にしましょう。

中でも大切なのは質問をすることです。例えば私の場合、娘とお風呂に入っているときに、「細長い入れ物と浅くて大きい入れ物、どちらの方が水がたくさん入ると思う? 」と聞いてみたことがあります。すると娘からは、「片方の入れ物に水を満タンに入れ、もう片方の空にした入れ物にその水を入れたらどちらがたくさん入るか分かる」というような回答が返ってきました。

そのあとさらに、両方の入れ物に適当な量の水を入れて、どちらの方がたくさん水が入っているか尋ねました。そうすると、置いてあったシャベルのおもちゃで水をすくって、「何回すくったかで水の容量が分かる」と答えたことがあったのです。こういう風に、直感的・感覚的に子どもが反応したり、質問してきたりしたときがチャンスです。そのチャンスを見逃さず、さらに次のレベルの質問をしていくと、子どもの知的好奇心が促されます。

"習い事に行かせただけ"で終わってはいけない

――著書には、子どもにたくさんのことを経験させることも大事だと書かれています

やっぱり全てやらせてみて、触れさせてみて、体験させてみることが大切だと思います。私の場合は、子どもの意欲もそうですが、私がやらせたほうがいいと思ったことも習わせてみて、本人が興味を示しているかどうか見極めます。大体3カ月の期間を設けて体験させてみて、興味を示さなければやめるというのを繰り返していますね。

――日本では石の上にも3年という言葉がありますけれど、そんなにすぐに適性が分かるものですか

最初の数回、子どもの様子を見ていれば、その習い事にフィットしているかどうか分かります。でもここで大切なのは、先生とのフィットがあるのか、それとも習い事自体にフィットがあるのかを見極めることです。また娘の資質や、性格にあった先生を選ぶというのも大事です。

しかしこれらのことも、やってみなければ分かりません。どのような先生であれば、子どもが自分を出して前向きに習い事に取り組めるのかは、親である私が見てみないと分かりません。習い事を教えるのは先生ですが、主体性を持ってどの習い事をさせるのか考えるのは、親なのだと心得る必要があるでしょう。

特に夏休みは、親がすごく真剣にリサーチをして、子どもが参加するサマーキャンプを決めます。アメリカでは、民間企業がさまざまな夏休みのプログラムを提供しているからです。夏を利用し、子どもにとって未体験のことを短期間でトライさせることができる、大きなチャンスと捉えています。

得意なこと好きなことに忠実に生きることが子どもにとって最高の幸せ

――好きなことをして失敗するよりも、子どもには堅実な人生を歩んでほしいという親も多いような気がします

私にも、子どもに「こういう職業についてほしい」という思いがないわけではありません。しかし、絶対に言葉に出しては言いません。親の価値観を押し付けるべきではないと考えているからです。実際どうなるかは分かりませんが、子どもがどのようなことをやりたいと言っても、私はショックを受けずに受け入れる覚悟や準備をしています。

やりたくないことをやるって悲劇ですよ。やりたいこと、好きなこと、得意なことに忠実に生きていける人間以上に、幸せな人はいないのではないでしょうか。その"好きなこと"を、子どもが自発的に見つけていけるように親ができることは、材料をそろえて手伝うことだけです。

就職に有利とか、周りがやっているからとか、国や民間企業が押し進めているからといって、それに沿う必要はないのです。英語ができなくても絵がうまいなら絵でいいし、最近流行しているプログラミング教育も、向き不向きがあるはず。そのような概念にとらわれず、自由に、子どもたちが人生の選択をしていけるような環境を整えることこそが、大事なのではないでしょうか。

『才能の見つけ方 天才の育て方』(1,500円・税別/文藝春秋)

うまれながらに特殊な才能を持つ「ギフテッド」(天才児)は、アメリカの統計によると人口の6~10%いるとされている。ただし、ひとつの才能に秀でていても、それ以外は平均以下で「困った子」とみなされることもあり、通常の学校教育の中では才能を発揮できないことも多いとか。本書では、全米天才児協会会員である著者が、アメリカのギフテッド教育の最先端をルポ。自分の子どもの才能を発見し、育てていくにはどうすればいいか、そのノウハウを提案している。