ソフトバンクグループによる英ARMの買収は驚きを持って市場に迎えられたが、スマートフォンやタブレットの約95%を占めるというARMアーキテクチャの総本山だけに、ARMがソフトバンク傘下になることで、何かスマートフォン市場に影響はあるのだろうか?
ARMはチップメーカーだがチップは作っていない
まずソフトバンクが買収した英ARM社とはどんな会社かを確認してみよう。ARM社は「ARM」アーキテクチャのCPUを設計している企業だ。ARMアーキテクチャは省電力機能を特徴とする組み込み・小型機器向けのCPUで、現在スマートフォンやタブレットの90%以上に組み込まれており、これからはIoTにも多く採用されていくと言われている。
PCにおけるインテルやAMDのような立場の企業に思えるが、ARMが特徴的なのは、自社ではチップを生産せず、あくまでチップの設計に特化した設計屋さんである点だ。ある世代のARMプロセッサを開発したら、そのライセンスを販売するので、あとは各自の製造設備で作ってくれ、という商売をしている。特に小型機器では消費電力を極力下げるために不要な機能をそぎ落とし、CPUコアと必要な機能だけを搭載する手法が多く取られるため、機能をブロック化(IPコア)し、ブロック単位で組み合わせて販売している。
ARMアーキテクチャを採用しているのは、Apple「Aシリーズ」、Samsung「Exynos」、Qualcomm「SnapDragon」など多数あり、それぞれが得意な分野や目的に応じてカスタマイズして利用している。カスタマイズの範囲も、IPコアを選ぶだけにとどまらず、独自機能を搭載したり、さらには命令セット自体を自分たちで拡張してしまう(Apple Aシリーズの64bit化)など、バリエーションに富んでいる。こうしたライセンシーがチップを作れば作るほどARM自身の収入も増え、影響力を増していくわけだ。
自分たちでチップを作っているわけではないため、設備投資や在庫のリスクなどがなく、経費がどれくらいかかるかも予測しやすい、効率のいいビジネスを展開していると言っていいだろう。
スマートフォンへの影響は?
一方、ソフトバンクといえば、今は通信業が中心だが、以前は出版事業やソフトウェアの流通などを手がけてきた企業だ。完成品の販売はあるが、CPUやSoCの販売は行っていない。今回ARMを傘下にしても、経営や設計の独立性を尊重すると言っており、ARMは当面、これまでの戦略に基づいて製品を設計していける。
ソフトバンクがキャリアであることから、競合するキャリアがARMを搭載した製品を採用しなくなるのではないかという懸念の声もあるが、たとえばスマートフォンではARM系アーキテクチャは実質独占的な位置を占めており、システムなどもARMへの最適化が進んでいる。これを、わざわざ別のアーキテクチャに置き換えて製造しようとすれば、とんでもないコストがかかってしまう。またARM自身がARMアーキテクチャをライセンスすることで利益を得ているわけで、その親会社であるソフトバンクが、自らの利益を減らすような施策は行わないだろう。
というわけで、ARMがソフトバンク傘下になったところで、スマートフォンやタブレットの世界において、ARMが占める位置は当面変わることはないだろう。もちろん、長期的にはソフトバンクが意図する狙いに向けてARM製品群の性格が変わっていく可能性はあるが、組み込み・小型機器向けの製品群も引き続き販売される可能性は非常に高く、心配することはないだろう。