今回の会見で孫氏が繰り返し語っていたことが、ARMの技術がIoT時代のカギとなるものであり、現在がIoT時代に向けたパラダイムシフトのタイミングであるということ。「PCがインターネットにつながり、モバイルインターネットとなり、その次がIoT。すべてのものがインターネットにつながる。人類史上、もっとも大きなパラダイムシフトになると信じているからこそ投資を行う」。とはいえ、ARMの業績は現状、2016年第1四半期で3億9800万ドル、2015年通期で約15億ドル(約1800億円)であり、3兆3000億円という買収金額との差は大きい。この点について同氏は、「差が大きい、というのは過去の結果の数字と比べて見てであり、これから得られるARMの数字。5~10年後を見れば、非常に安く買えたと理解してもらえると思う」と持論を披露。2020年にはARMのIP技術が適用されるチップの数は現状の4~5倍に伸びるとみており、IoTの進展を背景にありとあらゆる機器が潜在市場になるとの見方を示した。
これまでもソフトバンクはIT技術のパラダイムシフトの入り口の段階で大きな投資を行うことで、成長してきた。そうした意味では、孫氏の今回の投資は、これからIoTが本格的に市場を形成し、半導体産業の成長が確実なものとなるとの見方としてとらえることができる |
また、ARMがソフトバンクの傘下の非公開企業になることにより、ARMから離れる顧客がいるのではないか、という危惧については、「ソフトバンクは今まで半導体チップを買ってもいないし、使用してもいない。チップメーカーと競合するものではなく、完全な中立な立場だと思っている」と、ソフトバンクがARMに与える影響は基本的にないとするほか、「今回の買収により、上場廃止となるが、これにより、数年先に向けた開発投資を株主の意向を気にせずに積極的に行っていくことができるようになる」とし、今後5年間で英国における雇用を2倍に増やすほか、全世界の開発エンジニアの増員も進めていくことで、中立的な立場でチップメーカー、そしてそれを使う機器メーカーに向けて多くの新技術の提供に貢献していけるようになるとする。さらに経営陣についても、「優秀な人たちが揃っており、変える必要はないと思っており、今の経営陣に継続してもらいたい」という希望を示し、最終的には自身がどのようなポジションに落ち着くのかもまだ決定していないものの、少なくとも中長期的な戦略に関わってサポートをしていきたいと思っているとした。
今後、買収が完了すればARMは上場廃止となるが、1300を超す同社のパートナー企業は維持されることとなり、孫氏の言葉を借りれば、こうしたエコシステムを基盤に、中立性を維持しつつ、イノベーションへの投資をさらに加速していくこととなる。「ソフトバンクとARMは次にやってくるもっとも大きなパラダイムシフトに力を併せて挑戦していく」と同氏は力強く宣言しており、将来、ARMの半導体設計事業をソフトバンクグループの中核事業に育てていきたいという意気込みを示していた。