ソフトバンクグループは7月18日(日本時間)、スマートフォン向けCPUなどの半導体設計を行う英ARMホールディングスを買収することを発表した。7月17日時点での株価の約43%増しとなる240億ポンド(約3.3兆円)。日本企業によるM&A(合併・買収)としては過去最高額となる。同社の孫正義社長は英国で記者会見を行い、Web上でライブ中継を行った。

ARMはIoT時代の中心

孫社長は記者会見の冒頭、この買収が過去10年来、ずっと考えてきた案件であり、この買収を発表できる日が「ソフトバンク創業以来最もエキサイティングな日である」と宣言した。

熱弁を振るう孫社長。ニケシュ・アローラ前副社長の退任後だけに、大型買収にはさまざまな憶測が飛び交った

ARMの買収は総額約3.3兆円だが、70%(167億ポンド、約2.3兆円)を現金で、30%(73億ポンド、約1兆円)をみずほ銀行から借り入れるブリッジローン(短期融資)でまかなう。来月にはスーパーセルやガンホー株を売却した売却益が入ってくるため、このローン分も含めて基本的に現金資産のみでの買収となり、新株の発行などは行わず、資金も調達済みだという。ARM側の取締役会も全会一致で買収に賛成しており、友好的な買収となる予定。

孫社長はARMを、独自の基盤技術を持つマーケットリーダーであり、モバイル、エンタープライズ、そしてIoTという巨大市場において非常に高い成長ポテンシャルを持っていると説明。モバイルや自動車、家電からIoTへと続くターゲット市場はソフトバンク自身の長期的ビジョンにも合致しており、今後は非公開企業として、長期的・戦略的に投資を進めていくとした。またARMについては現在のARMの組織と英国ケンブリッジにある本社を維持し、ARMの中立性と独立性を維持するとともに、今後5年間で英国での雇用を倍増させると発表した。

また、テクノロジーのパラダイムシフトとして、かつてPC用ソフトが店頭販売されていた時期から、インターネットとブロードバンドの普及、そしてモバイルインターネットへと情報革命が行われてきたことを提示し、次なるパラダイムシフトはIoTだと指摘。現在ARMベースのSoCは年間148億個が販売されているが、これがIoTの時代になれば数十~数百倍と増えていくことから、ARMこそがIoT世界の中心となると宣言した。

IoT時代は一人あたり1,000台以上がネットにつながるようになるとも言われており、そのコアとなるARMアーキテクチャの存在意義はますます大きくなる

3.3兆円は安い

質疑応答では、英国のEU離脱決定(いわゆるBrexit)によるポンドの急落が買収の決め手になったのかという質問に対し、ポンドは約15%下落したがその間にARMの株価は約15%上昇しており、為替によるメリットが決め手ではなく、たまたまスーパー7やアリババの株式売却益があったことが決め手になったと説明した。また3.3兆円は買収金額として高すぎるのではないかという指摘に対し、それは過去の実績に対する評価であり、今後IoTの時代になってからを考慮すればむしろ安い買い物と考えていると反論した。

通信会社であるソフトバンク傘下になることで、競合する企業がARM製品を導入しにくくなるのでは、という質問に対しては、ARMの事業とソフトバンクの事業に接点がなく、それぞれの取引先と競合することはないため、完全に中立であると説明した。実際のところスマートフォンやタブレットは90%近くがARMアーキテクチャであり、もし仮にARMアーキテクチャを扱わないことにすると、iPhoneなどの人気製品も軒並み手放すことになり、キャリアとしてはメリットがほとんどないことになるため、杞憂というものだろう。

3.3兆円という金額は莫大なものだが、目論見通りIoT時代が到達すれば、ARMの事業規模は現在の数十倍を超えるものとなる。ARMはあくまでチップの製造ではなく、CPUの設計やセキュリティといった機能を販売する企業だが、こうした機能とソフトバンクのサービスとのシナジー効果も期待できる。長期的な視野からすればお買い得な買収となったのではないだろうか。