7月10日投開票の参議院選挙で、自民党と公明党の与党が圧勝した。単に与党を脅かす政党がなかっただけかもしれないが、結果的に安倍政権の政策、経済面でいえばアベノミクスが信任を得た格好となった。

安倍首相はさっそく経済対策の策定を指示。事業規模は10兆円超とみられ、その財源として4年ぶりの建設国債発行も視野に入るようだ。

そして、日銀が、早ければ7月28-29日の金融政策決定会合において追加緩和を決定して、政府の経済対策に援護射撃するとの見方が強まっている。そうした積極的な財政・金融政策への期待が最近の株高や円安の背景にあるようだ。

折しも、7月11日に米FRB(連邦準備制度理事会)の前議長であるベン・バーナンキ氏が来日し、安倍首相や黒田日銀総裁と会談した。そこで、急きょ脚光を浴びているのが「ヘリコプター・マネー」だ。

ヘリコプター・マネーとは、ヘリコプターで上空からお金をばら撒くかの如く、中央銀行が制約や制限なしに資金を放出することをいう。バーナンキ氏は今から10年以上前に、日本のデフレ脱却手段の一例としてヘリコプター・マネーを提唱したことがあり、「ヘリコプター・ベン」とのあだ名もある。

今のところ政府は否定しているが、ヘリコプター・マネーが実際に検討されるとすれば、政府が国債を増発して歳出を増やす一方で、日銀が国債を買い取って政府に資金を供給する形をとりそうだ。上述した建設国債は、公共事業など使途を特定して資金を調達するものだが、国債増発という点で、財政赤字を埋めるための特例国債、いわゆる赤字国債と何ら変わりはない。

さて、日銀は「マイナス金利付き量的・質的金融緩和」を実施しており、現在も国債を大量に購入している。ただ、それは事後的に市場から購入しているのであって、財政政策とは一線を画している(その線はぼやけてきたが)。

これに対して、ヘリコプター・マネーは、日銀が買い取ることを前提に、政府が国債を発行して、その資金を利用する(ばら撒く)のであり、金融政策と財政政策の一体化を意味する。

それは、「財政ファイナンス」、あるいは「国債のマネタイゼ―ション(貨幣化)」とも呼ばれる。国債の大量発行に対して、国債価格が下落して(利回りが上昇して)政府に警鐘を鳴らすという市場の機能が働かないため、財政規律が喪失する恐れがある。そして、日銀による野放図の貨幣発行は通貨価値を大きく棄損することになりかねない。それはすなわち、ハイパーインフレや「悪い円安」である。そうした危険があるから、財政ファイナンス(国債のマネタイゼ―ション)は長く「禁じ手」とされてきた。

政府と日銀はついに「禁じ手」を解禁するのだろうか。今後の進展に注目したい。

執筆者プロフィール : 西田 明弘(にしだ あきひろ)

マネースクウェア・ジャパン 市場調査部 チーフエコノミスト。1984年、日興リサーチセンターに入社。米ブルッキングス研究所客員研究員などを経て、三菱UFJモルガン・スタンレー証券入社。チーフエコノミスト、シニア債券ストラテジストとして高い評価を得る。2012年9月、マネースクウェア・ジャパン(M2J)入社。市場調査部チーフアナリストに就任。現在、M2JのWEBサイトで「市場調査部レポート」、「市場調査部エクスプレス」、「今月の特集」など多数のレポートを配信する他、TV・雑誌など様々なメディアに出演し、活躍中。

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