主要国の中央銀行に一段の金融緩和圧力が加わっている。そもそも世界経済が低迷しているうえに、BREXIT(英国のEU離脱)ショックが加わったからだ。

震源地となった英国では、BOE(イングランド銀行)のカーニー総裁が6月30日にTVに出演して、BREXIT選択の影響に対処するため、数か月以内に金利を引き下げる可能性があると語った。BOEは国民投票の前から市場に対する資金供給を増やしていたが、それを続けていく模様だ。

ECB(欧州中央銀行)関係者の間では、金融緩和の是非に関して温度差はある。ただ、ドラギ総裁はEU首脳会議向けの文書で、BREXITによってユーロ圏の成長が向こう3年間で最大0.5%押し下げられるとの見解を表明し、警戒を示した。また、ECBが債券購入のルール緩和を検討しているとの報道もあり、市場では量的緩和を拡大するための準備ではないかとの見方も出ていた。

日本銀行については、もともと7月28-29日に開催する金融政策決定会合で追加緩和に踏み切るとの見方はあった。同会合でまとめる「経済・物価情勢の展望(展望レポート)」で、2%程度の物価目標の実現時期を従来の「2017年度中」から一段と先送りする可能性があるためだ。これまでも「なし崩し」的に実現時期の予想を先送りしてきたが、足元の円高が景気や物価に下押し圧力を加えていることを考えると、さすがに「必要ならば躊躇しない(黒田総裁)」姿勢を見せる必要があるかもしれない。

米FRB(連邦準備制度理事会)については、年内利上げはないとの見方が支配的になってきた。政策金利であるFFレート先物に基づけば、市場が織り込む2017年末までの利上げの確率は50%を下回ってきた。つまり、今年どころか、来年も「金利据え置き」がメインシナリオになったことを意味する。そして、ごくわずかながら、利下げの確率も織り込まれ始めている。数か月前には「今年7月に利上げも」との観測もあっただけに様変わりだ。

世界の株価は英国民投票の結果判明後に急落したが、その後に反発しているのは主要国の金融緩和に対する期待が高まったことが背景にあるだろう。そして、多くの国で国債利回りが過去最低を更新、日本やドイツでは10年を超える国債の利回りまで大きくマイナスとなっている。

金融政策の方向性の変化は、為替市場にも影を落としている。上述のように、FRBに関する市場の見方はBREXITの前後で、「早期利上げも」から「来年末まで据え置き」へと大きく変化した。BOEについても、「当面据え置き」から「早期利下げも」と変わった。そのため、ドルやポンドは下落圧力を受けている。

その一方で、ECBについては「いずれ追加緩和も」に具体的な準備が加わった程度であり、日銀は「近く追加緩和も」に新たな理由が追加されたに過ぎない。両者とも、金融政策の方向性に大きな変化はないため、ドルやポンドに比べて、ユーロや円は相対的に上がりやすい状況かもしれない。

執筆者プロフィール : 西田 明弘(にしだ あきひろ)

マネースクウェア・ジャパン 市場調査部 チーフエコノミスト。1984年、日興リサーチセンターに入社。米ブルッキングス研究所客員研究員などを経て、三菱UFJモルガン・スタンレー証券入社。チーフエコノミスト、シニア債券ストラテジストとして高い評価を得る。2012年9月、マネースクウェア・ジャパン(M2J)入社。市場調査部チーフアナリストに就任。現在、M2JのWEBサイトで「市場調査部レポート」、「市場調査部エクスプレス」、「今月の特集」など多数のレポートを配信する他、TV・雑誌など様々なメディアに出演し、活躍中。

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