ストレスなく選手が利用できるためのシステム
2012年末に半年程度で作り上げたONE TAPは現場投入後、現在に至るまで何百回というカスタマイズが行われてきたという。時には夜のうちにカスタマイズ希望部分が伝えられ、翌朝までに仕上げなければならないこともあったというほどクイックな対応を求められたが、小規模な会社だからこそ対応できたと語る宮田氏は「われわれは『IT』というたった1つのピースに過ぎないけれど、一緒に戦っているという気持ちでした。だからこそ、南アフリカ戦はいいところまで行くのでは...とは思っていました」とも語る。
劇的な勝ち星を挙げたラグビー日本代表の成長を支えてきたという実績からONE TAPも注目され、汎用化したものがONE TAP SPORTSとしてサービス化された。各種競技のナショナルチームに加え、ラグビーやサッカー、野球といった競技のプロチーム、育成チーム、大学の競技チームなどで採用されているという。
一部機能の絞り込みや分離なども行われているが、基本的な操作性などはラグビー日本代表が使用していたものと同じで、選手側が主観で入力する項目と指導者が入力する項目および、客観的なデータが存在する。選手は疲労度や体調、睡眠、痛みの有無などについてスマートフォンやタブレットを利用して入力するのだが、スライドバーをタップするだけで手軽に入力できるよう工夫されている。
加えて、指導者による練習強度や内容などの情報入力と、体重などの基礎データ、けがの有無や状態、治療に関するデータなどが追加される。その結果、練習が厳しすぎて疲労度が大きく、多くの痛みを訴えているから翌日の練習を減らすことや、選手によっては練習を休ませるというような判断が行えるわけだ。
また、閾(しきい)値を設定して問題発生の可能性が高まっている場合や、疲労度が非常に高い場合には指導者たちにアラートが送られる。さらに、データから読み取った分析結果をユーフォリア側でレポートにして提供することもある。しかし、アラートをどう受け止めるか、レポートの内容をどれだけ選手に伝えるかという判断は現場の指導者、トレーナーなどが行うものでユーフォリア側が踏み込む場ではないという。
宮田氏は「ラグビー日本代表の場合は個人の所有するスマートフォンから入力していたので、起床して動き出す前に一部の計測データや主観データを入力していましたが、中にはチームに数台のタブレットを用意して選手が並んで入力するような方式を採用していることもあります。選手によっては、同じ痛みでも辛さを感じる程度が違うこともあり、また体調が悪いことをなかなか言い出せない選手もいると思います。そのため、ある程度時間をかけて数値の推移を見ていくことにより、選手ごとの傾向を把握しようとしています」と説明した。
正確なデータを取るだけならばウェアラブルデバイスを使う方法もあるが、種類が多く、選択が難しいうえに競技中には邪魔になり、壊れやすいという問題もある。衣類に組み込むものもあるが、競技の邪魔にならず十分な強度を持たせるためには、もう少し時間がかかりそうだ。現在はGPSを利用して移動距離・スピードなどを計測することが主流で、コンディションデータの取得は一部に限られているという。
そして同氏は「選手にとってストレスがないことが重要です。動きを妨げてしまうようなウェアラブルデバイスや、面倒な入力は選手の負担になります。こんなデータが取れてすごいというのは現場では意味がなく、何に役立つデータを取っているのかを選手が納得したうえで取得するものでなければなりません」と指摘する。
これまで、スポーツ分野におけるデータ管理はゲーム中の選手の動きを分析するものが中心だったが、トレーニング中や日常のコンディション管理に着目したことがONE TAP SPORTSのポイントであり、幅広い分野から注目を集めていることを裏付ける。また、価格が安価であることもあり、トップアマともいえる大学の上位チームだけではなく、高校の部活動や、それ以下の年代を対象としている少年チームなどからも注目されているようだ。