父親の子育てをサポートするNPO法人「ファザーリング・ジャパン」。このほど、設立10周年を記念したフォーラム「父親がMotto変われば、社会はもっとかわる! 」を開催した。同フォーラムでは、男性学の研究者で武蔵大学社会学部の田中俊之助教が「現代の日本社会で『父親になる』ということ」をテーマに講演。現代の父親が置かれている状況や、父親が子育て参加できる社会を作るために必要な活動について語った。
子育てが"個人の責任"になっていることへの危機感
田中助教ははじめに、時代による父親の定義や役割の変遷について解説。「結婚するかしないかというのが個人の選択になっているというのは端的な事実」とした上で「子どもを持つこともいまや個人の選択になった」と主張した。
「避妊が一般化し、生殖医療が発展し、子どもを持って子育てするかどうかは選択できるものになった。問題だと思うのは、子どもをつくったことが個人の選択なのだから、子育ても個人の責任でしてくださいという風潮だ」。0歳の息子がいる田中助教。例えば東京の街1つとっても、ベビーカーでの移動が大変で、独身の時と比べて暮らしにくいと感じることが増えたという。子育てを大変だと感じる環境の改善を個人の責任として処理せず、「政府でも個人でもない中間的な団体が子育て支援においてできることがある」と、ファザーリング・ジャパンの活動意義を語った。
男性の働き方を見直す必要性
さらに男性の働き方についても言及。政府の第4次男女共同参画基本計画に書かれている「男性中心型労働慣行等を変革する」との文言をあげて、田中助教は「週5日、1日8時間、週40時間の労働を最低限とする働き方を見直すべき」と語った。
「今の日本では、残業があるというイレギュラーで異常な働き方が普通になっていて、定時で帰るという普通の働き方が異常とみなされている」と指摘。「30~40代の男性の18%は週に60時間以上働いている。1日12時間以上働いて、子育てもするというのは大変なこと。父親が働くしかない現実を変えていかなければならない」と訴えた。
そして田中助教は、社会学者ピーター・L・バーガーが社会を変えるときに必要なこととしてあげた「苦痛の計算」「意味の計算」を引用し、父親が子育てに参加できる社会を作るにあたって考慮すべき点をあげた。「長時間労働の中で子育てをするという"苦痛"を無視しない」「"父親が子育て・家事に主体的に取り組むべき"という考えを持たない人たちのことを理解し、手を結んでいくことで、実質的な"意味"において社会を変えるべき」という主張だ。
「自分たちと価値観が異なる人たちに対して、"遅れている"とか"間違っている"というのは気持ちがいいかもしれないが、社会を変えるという点においてあまり意味がないのではないか」と指摘している。
"フツメン"の子育てサポート体制を
それでは、このような点を考慮した上での、具体的な行動とはどのようなものなのだろうか。田中助教があげたのは同社会学者が提唱した「積極的寛容」という言葉だった。「自分と異なる価値観を持つ個人や集団と出会ったときに敬意を払うとか、その価値観を受け入れる開放性を持つことが必要」とのこと。「自分には関係ない」という無関心ではなく、考え方や価値観が異なる人と積極的に交わっていくことの大切さを説いた。
最後に田中助教は「政府はもっと子育て支援に力を入れるべきという議論はあるが、議論しているうちに子どもは育ってしまう。そうであれば、自分たちでできることとして、子育て世代が地域と積極的に関わり、自分たちの居場所にしていくということをやるべき」と地域の人たちによる、子育て支援の可能性について言及した。そしてファザーリング・ジャパンへの注文として「イクメンでなく一般市民の普通のメンズ"フツメン"は誰かにサポートしてもらわなければ、子育てに関わることが大変難しい状況にある。フツメンが地域の中で子育てしていけるような活動を積極的に展開してほしい」と訴えた。