「産後うつかもしれない……」と感じた時、どのように対処したらいいのだろうか。日本周産期メンタルヘルス研究会理事で、産婦人科医として「広尾レディース」(東京都渋谷区)の院長も務める宗田聡先生にお話をうかがった。
保健所に相談するのがオススメ
産後に気分の落ち込みが激しく、普通ではないなと思ったとき、いきなり精神科へ行くのは勇気がいるだろう。そこで宗田先生は、まず地域の保健所に相談することを勧めているという。
「地域によって、精神科がいいのか産婦人科がいいのか、保健所は情報を持っているので、適した医療機関も紹介してもらえるだろう」とのこと。産後うつは早い段階でカウンセリングなどのサポートを受ければ、比較的重症にならないことも多い。保健所であれば保健師によるカウンセリングも受けられ、利点が大きい。
産後うつは母親と赤ちゃんだけの密室育児から誘発されることが多いため、夫や家族など周囲の協力も必要だ。宗田先生は、夫が仕事で子育てに十分関われなかったり、親が高齢でサポートが頼めなかったりする場合も、「さまざまな子育て支援サービスを利用することができる」とアドバイスしている。自治体によってはファミリーサポートセンターから産褥(さんじょく)ヘルパーの派遣をしているところもある。「産後ケア入院」を行っている助産院、産前産後のケアの専門家を自宅へ派遣する事業を活用してみてもいいかもしれない。
関係機関が連携して産後ママの心身のケアをする流れに
産後うつは赤ちゃんやパートナーに与える影響も大きいことから、今では早期発見、早期介入が国をあげての重要な課題となりつつある。宗田先生の所属する周産期メンタルヘルス学会では2012年に「周産期メンタルヘルス・ケアに関する提言」を出し、ケアが必要な人に対して、助産師、保健師、看護師、産婦人科医、小児科医、精神科医などが連携できる仕組み作りを訴えてきた。
日本産科婦人科学会と日本産婦人科医会も、来年改定する産婦人科診療ガイドラインに、「産後うつ」に関する具体的な対策を初めて盛り込む方針だ。妊娠の初診時と出産直後に産婦人科医らが、過去にうつ病や統合失調症になった経験、自傷行為の有無などを問診し、産後うつになりやすい女性をスクリーニングするという。
しかし注意してほしいのが、産後ケアに関する支援が充実する一方で、「産後うつ」という言葉が一人歩きし、本物の病気が見えにくくなるというケースもあるということだ。産後うつと思っていたら甲状腺の病気が隠れていたいうこともあるし、妊娠、出産にかかわらず「うつ傾向」だったという場合は、産後うつの治療法では改善しないこともあるとのこと。そのため自分1人で判断せず、専門機関の門をたたくことが必要といえる。
「どこの国にもお産が終わって約1カ月はうんだ女性を労わる習慣がある。それは経験的にその時期に無理をすると不調が出るということがわかっていたからでは」と宗田先生。産後は1人で何でもやろうとせず、十分休息をとること。周りの家族は産後ママの不調の訴えを「みんなそうだから」で片づけることなくきちんと理解すること。そしてうつ状態になってしまったら早期に対策を打って重症化させないことが、大切なのではないだろうか。
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宗田聡(そうだ さとし)先生プロフィール
筑波大学産婦人科講師を経て、アメリカ留学。留学時にMGH(マサチューセッツ州総合病院)のWomen’s Health部門の検討会に参加したことを機に、帰国後、女性のこころと身体を総合的にサポートする医療をこころざす。2012年より女性の健康をトータルにケアするクリニック、「広尾レディース」院長。著書に『産後ママの心と体をケアする本』『産後うつ病ガイドブック』『31歳からの子宮の教科書』等。