2015年に公開されて大ヒットした『ストロボ・エッジ』と『ビリギャル』。そのクライマックスで、女優・有村架純(23)が見せた演技が今も頭から離れない。専門家でもないので何の説得力もないのだが、演技なのか素なのか見分けがつかない独特のリアリティーに、心をわしづかみにされてしまったのは事実だ。なぜそこまで引き込まれてしまったのか。有村が『ストロボ・エッジ』の廣木隆一監督と、主演映画『夏美のホタル』(6月11日公開)で再びタッグを組むと知り、早速取材を申し込んだ。
覚悟の人――彼女には何となくそんなイメージを抱いていた。現在の所属事務所に一度は落とされても諦めずにリベンジし、晴れてデビューを飾ってからもオーディションは落選に次ぐ落選。NHK連続テレビ小説『あまちゃん』で一躍時の人になるわけだが、『夏美のホタル』の夏美は有村の不遇の時代とも重なる。写真学校の同級生たちは実力を評価され、自分は手応えを感じないまま。漠然とした将来への不安。やり場のない焦燥感。父の形見のバイクで向かった思い出の森で、夏美の人生がゆっくりと動きはじめる。
目の前の有村は、物静かで聡明。「覚悟の人」というイメージには笑って謙遜しながら、演技の話になると穏やかな中にも控えめな熱を帯びはじめる。そこには廣木監督から受け継いだ「引き算」があり、さらにその背景には「二十歳の節目」と「日記」が大きく関係していた。明確な目標を立てて、不屈の精神で切り開いてきた女優の道。勝手にそう思い込んでいたが、最後の質問にはその真逆となる答えが返って来た。
「つまんねえ芝居だな」の"毒"を浴びる
――昨年の主演作『ストロボ・エッジ』『ビリギャル』を経ての今回。個人的には女優としての"進化"を感じたのですが、そのあたりはいかがですか。
ありがとうございます(笑)。『ストロボ・エッジ』と『夏美のホタル』で、それぞれ違うことを学びました。そういった意味では、廣木監督との出会いは大きかったと思います。『ストロボ・エッジ』では「芝居は引き算」というお芝居の根本を教えていただいたような気がして、今でもその言葉を胸にお芝居と向き合っています。その後、舞台『ジャンヌ・ダルク』や『ビリギャル』、そして『いつ恋』(フジテレビ系16年)では連ドラ初主演という大役をいただきました。
それらを経ての『夏美のホタル』だったのですが、廣木監督は私を見て「変わった」とおっしゃってくださいました。私自身が変化を実感する部分は微々たるものなんですが、そうやって言ってくださるだけでうれしいです。でも、現場では、一年間の中で経験したものを、一度全部取り除いてくださるんです。「今回は何も考えないで現場に来て」と。もちろん役としてのベースはありましたが、「余計なことは考えないで」という監督の意向に乗っかっていこうと思って臨みました。
――「何も考えない」というのも難しそうですね。
結構、勇気のいることでした(笑)。でも、廣木監督の言葉を信じて飛び込ませていただきました。そういった面でも、他の作品と取り組み方が違ったような気がします。
――先ほどおっしゃった「芝居の引き算」とは?
経験を重ねると技術面も身につきはじめて、それは必要なものもあればいらないものもあると思うんです。廣木さんは、うれしいとか悲しいとかの感情を表情で伝えるのではなくて「気持ちがあれば目で伝わる」。今回の現場でも、お芝居は理屈じゃなく、「心」や「気持ち」なんだと教えていただきました。お芝居を引き算していった時に、結局残るのは気持ち。だから私は、何があっても気持ちを大事にお芝居と向き合っていきたいと思っています。
――それだけのことを気づかせてくれた監督。出会いは大切ですね。
そうですね。廣木さんに出会わなかったら、そのことに気づかないまま……。何も分からないまま『ビリギャル』をやっても、同じように演じられなかったかもしれません。
――ブログには「廣木さんの世界でまた生きられる」(2015年12月19日投稿)と書いてありましたが、廣木組の魅力とは?
役者一人一人を「魅せて」くれる方。経験が豊かでも、浅くても、絶対に役者に対して妥協しない。そこが私にとっての廣木さんの魅力です。その分ごまかせないし、うそもつけない。厳しい分だけ、ちゃんと愛してくれているというのが伝わる監督です。
だから、きっとその思いが作品にも現れているんだと思います。お芝居の上手、下手で役者を選んでいるわけではなくて、たぶん「気持ちでこの役者は伝えてくれる」という思いが、役者さん一人一人に伝わって輝く。気持ちが出ていなければ、当然何回も求められますし、技術で芝居しようものならすぐに気づいて怒られてしまう。本当に妥協をしない方です。
――ということは『ストロボ・エッジ』でかなり鍛えられた?
はい(笑)。私がどんなタイプかも含めてその時に全部知っていただいたと思うので、今回はあまり探られることなく、わりとまかせてくれたような……。もちろん、私の芝居を見て「つまんねえな」と言われたシーンもありました(笑)。
――なかなか厳しい一言ですね(笑)。
ええ(笑)。まず、「ドライ」といってお芝居を固めるためのリハーサルを何回もやります。それがOKだったら、カメラテスト、本番とサクサクと進みますが、その「固める」までは何十回とお芝居をする場合もあって、どうしてもうまくいかなかった時に「つまんねえ芝居だな」と言われてしまいました。実際につまらないから言われてもしょうがないんです。そういう毒がたまに飛んでくるのも廣木さんです(笑)。
――工藤阿須加さん演じる慎吾をバイクで追いかけきれずに停めて、フルフェイスのヘルメットをかぶったまま泣くシーンがあります。目元しか見えていませんが……それこそ廣木さんが求める「目で訴えかける」演技だったような気がします。ヘルメットをかぶったまま泣くのは難しくないんですか?
障害物だとは思います(笑)。でも、気持ちは同じなので演じる上では大丈夫です。『夏美のホタル』はずっと「引き算」を意識していたので、観ている人にちゃんと伝わるのかなという心配はありました。