高齢化、後継者不足、耕作放棄地の増加など、現在の農業が抱える問題は多岐にわたるが、その多くは作業を効率化することで解消できるかもしれない。効率化を目指す取り組みのひとつとして注目すべきなのが、佐賀大学農学部と佐賀県農林水産部、オプティムの3者が連携して実現しようとしている「IT農業」だ。
3者が目指すのは「楽しく、かっこよく、稼げる農業」をコンセプトにしたIT農業。産学官で連携することにより、効率的かつ高度で、スピーディーな開発を進めており、2015年8月の連携協定締結からわずか1年足らずで今回の経過発表会までこぎ着けた。
3者連携の途中経過発表会で「スマートやさい」のほか、農業用に特化した「アグリドローン」、ドローンではカバーできない場所を走行する「オプティムアグリクローラー」もお披露目された。写真左から、佐賀大学 農学部 田中宗浩教授、佐賀大学 農学部 学部長 渡邉啓一教授、佐賀県 農業試験研究センター 田崎博文所長、オプティム 代表取締役 菅谷俊二氏 |
「スマートやさい」というコンセプト
今回の最大のトピックは、新コンセプト「スマートやさい」だ。スマートやさいとは、「ITでスマートに育てられた佐賀の野菜」のこと。まだ販路などの詳細は決まっていない。
「ITでスマートに」の具体的な内容は、ドローンやロボットによる生育状況の監視、画像解析による病害虫の検出、メガネ型デバイスによる遠隔地からの作業支援など。ITの力を最大限活用し、人の手を極力かけないかたちで効率的に栽培された野菜だ。
栽培だけでなく、食品の流通にもITが生かされている。スマートやさいのパッケージには、2次元バーコードが付与されており、野菜を手にとった消費者が生産管理ログなどを閲覧できるようになっている。生育管理時のデジタルデータ蓄積があるからこそできるサービスだ。消費者の評価が生産者に届いたり、消費者が直接生産者へ注文したり、といったことができる仕組み。生産者にとっては生産の効率化、コスト削減、ブランド強化といったメリットが、消費者にとっては生産過程を確認できる安心感といったメリットがある。
佐賀大学農学部 渡邉啓一学長は、スマートやさいの仕組みを「ベジタブル コミュニケーション&トレーサビリティ プラットフォーム」と表現。スマートやさいは生産者と消費者、あるいは消費者同士をつなげるプラットフォームとなりうるのだ。
コミュニケーションツールとしての役割も果たすスマートやさい。さらに、このスマートやさいを使って、3者は「農業の4次産業化」を目指すという。4次産業とは「1次産業+3次産業」を表す造語。生産者が加工や販売まで手がける「6次産業」は近年よく聞くが、オプティム 代表取締役社長 菅谷俊二氏は「自分で作ったものを加工・販売していくとなると、1人でこなすのは無理がある」と説明。それに対して、1次と3次を結びつけた4次産業なら、生産者への負担はそこまで増やさずにITで実現できるのでは、と提案に至った背景を語る。