神奈川県・パシフィコ横浜国立大ホールにて12日、『機動戦士ガンダム』シリーズの世界と音楽が融合したライブイベント「ガンダム LIVE EXPO ~ジオンの世紀~」が開催された。
同イベントは、TVアニメ『機動戦士ガンダムUC』原作者の福井晴敏氏と『機動戦士ガンダム THE ORIGIN』脚本の隅沢克之氏が構成を手がけた、ライブ・朗読・トークで『機動戦士ガンダム THE ORIGIN』から『機動戦士ガンダムUC』にいたる"宇宙世紀"の物語を紡ぐエンターテインメントショー。朗読は、キャラクターたちが劇中で描かれた当時の心境を振り返る形式となっており、ファンにとってはそれぞれのキャラクターたちの深意を知る貴重な機会となった。本稿では、オープニングから『機動戦士ガンダムサンダーボルト』までの第1部についてレポートする。
舞台には観客席から向かって右手にジオン、左手にはネオ・ジオンの軍旗が掲げられ、中央には『ガンダムUC』に登場した"ラプラスの箱"こと宇宙世紀憲章の石碑を模したモニターが配置されていた。イベントはミネバ・ザビ(CV.藤村歩)による独白から始まり、ジオンの興亡を軸に、繰り返された争いを回顧。その宿命にも思える争いを前に、ミネバは「そうではない」と力強く宣言する。この世界を生き、歴史を作り上げてきた人間の声にこそ、争いを避けるためのヒントがちりばめられているという。ミネバの「耳を澄ましてみよう、彼らの声に」という言葉から、"宇宙世紀"を生きた人物たちの軌跡をめぐる旅がスタート。以降、ミネバの語りが全体をつなぐガイドとなっていく。
『機動戦士ガンダム THE ORIGIN』のコーナーでは、宇宙世紀0079年を舞台に、赤い専用カラーのザクに搭乗して任務に向かうシャア(CV.池田秀一)の心情が語られ、そこではシャアがコックピットでノーマルスーツを身に着けないこだわりについて、「宇宙という名の戦場は、撃墜されたらそこで終わり。必ず帰還するのなら、私には無意味だ」と、その理由が明かされた。朗読に続き、石田匠が『THE ORIGIN II』主題歌の「風よ 0074」を披露した。
それから登場したのは『THE ORIGIN』でセイラ・マスを演じた声優の潘めぐみ。セイラとして、母・アストライアへの思い、そして孤独を抱え自分の元を去っていった兄への後悔を語った。対するシャア(池田)は、セイラの懸念とは別のところで母と妹を守る決意を固めていたことを告白する。「崇高、威厳、忍耐、自然への愛」の花言葉をもつ木蓮に母を重ね、セイラ同様に母を慕っていた。しかし、母が幽閉の末に孤独な死を遂げたことで、ザビ家への復讐を誓う。さらに朗読では、『THE ORIGIN III』で描かれた「暁の蜂起」へ至る彼の思いが語られた。
続く『機動戦士ガンダム 第08MS小隊』の回では、苛烈を極めた一年戦争の最中、敵・味方を越えて分かり合おうともがく連邦のシロー・アマダ少尉の視点が描かれる。「10年後の俺は何をしているだろう、その時俺は笑っていられるのだろうか」と迷いながら戦い続ける彼の苦悩が語られ、そのまま米倉千尋による主題歌「嵐の中で輝いて」のライブに突入した。
さらに次の『機動戦士ガンダム サンダーボルト』では、音楽を担当したジャズミュージシャンの菊地成孔氏と松尾衡監督がトークショーを行った。松尾監督は、菊地氏に曲を依頼した理由について聞かれると、「ジャズ界の人から文句を言われない人だから」と回答。また、「当初は劇伴もお願いする予定だったのですが、菊地さんから『2人(イオとダリル)が聞いている曲だけで構成しても十分じゃないか』という提案を受け、あえて劇伴はなしで構成して、それが結果的にいいものになった」と明かした。
ストーリーでは2話以降(全4話)から菊地氏が音付けのディレクションも行っていたことに話が及ぶと、菊地氏は「普通は音楽を納品して終わりなのですが、1話ができあがって『いかがですか?』というメールが松尾さんから届いたので、ここはもっとこうしたらいいんじゃないんですかねと返信したら、『その意見を反映して2話以降やりたいので、音を貼ってください』と言われて」と内幕を語った。一方の松尾監督は「僕も小形尚弘プロデューサーも、ジャズ詳しくないんですね。だから音を貼るとなった時に『どうやって?』となってしまって。一話を貼ってみたはいいものの、やはり『一度菊地さんに見てもらおうよ』という流れになりました」とコメントした。
また、日本を代表するジャズピアニストの大西順子が楽曲に参加した理由について、偶然菊地氏が『サンダーボルト』と並行して大西のプロデュースを行っていたためであったことが語られたが、松尾監督によると大西は「これ本当にガンダムなの? ドッキリじゃないの?」と最後まで疑っていたという。それだけ、この『サンダーボルト』の曲がアニメ楽曲として異彩を放っていたということかもしれない。最後には松尾監督が、「見ていただいて、『宇宙世紀に仲間入りをしていいんじゃないの』と思っていただけたら、上井草(サンライズの第一スタジオがある)のほうに向けて『まあまあよかったよ』と言っていただけるとうれしい」と会場に呼びかけた。そして、劇中でダリルが聴く曲の中から、ICI a.k.a.市川愛の「あなたのお相手」が披露された。
歌唱が終了すると、2016年秋からスタートする『機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ』2期のPVが流れ、第1部は終了した。
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