マイナス金利政策により、銀行の預金金利は一段下がり、大手銀行の定期預金金利はそれまでの年0.025%から0.01%になりました。100万円を1年預けても利息はわずか100円。そこで、受け皿として注目が集まっているのが、「個人向け国債」。なぜ注目されるのか、商品の特徴を紹介しましょう。

国債は国が元本を保証する安全性の高い商品

国債を個人が買いやすくするために、1万円と小口に分けて発行できるようにしたのが、個人向け国債です。変動金利型が2003年3月から、固定金利型は2006年1月から発行されています。政府が発行元ですから、国が元本保証をする安全性の高い商品ですが、当初は年4回の発行で、中途換金をすると元本割れする可能性もある、という理由で、個人の人気はいまひとつでした。途中で、毎月発行に変更したり、適用金利の算出方法を変えたりするなど、個人が買いやすい条件に変更されました。

今現在、3タイプある個人向け国債の商品内容は、下表の通りです。

個人向け国債の商品内容

ここで注目されるのが、金利の下限があることです。3つのタイプは、それぞれ発行時期の基準となる金利によって、個人向け国債の適用金利が決められます。基準となる金利が上がれば適用金利も上がり、金順となる金利が下がれば適用金利も下がるという仕組みです。ただこの方法だと、基準金利が大幅に下がった場合、決められた算出方法では適用金利がゼロになることもあり得ます。そのため、金利の下限がもともと設けられていました。それが0.05%です。

現在の基準金利は「-0.10%」。変動10の場合、これに0.66をかけて適用金利を算出しますが、基準金利がマイナスのため、適用金利もマイナスとなってしまいます。固定金利型は基準金利から一定の利率を差し引きますが、同じように適用金利がマイナスになります。

そこで、現在発行される個人向け国債は、いずれも下限金利の「0.05%」が適用されているのです。基準金利よりも適用金利が高くなるという現象が起きているのです。

なぜ、「変動10」が人気になるのか

下限金利の0.05%ととはいえ、大手銀行の定期預金金利が0.01%であることを考えれば、個人向け国債は相対的に金利が高い商品ということになります。

では3つのタイプとも同じ0.05%であるのに、なぜ変動10に人気が高まるのでしょうか。

固定金利型の場合は、満期が5年か3年で、発行時点の適用金利が満期まで変わりません。変動金利型の場合は、半年に一度、金利の見直しが行われるため、その時点で基準金利が上がっていれば適用金利も上がるのです。

現在のマイナス金利政策は当面続く可能性が高いので、直近で適用金利が変わることは考えにくいです。しかし、変動金利型の満期は10年なので、その間には金利上昇の可能性もあり、持ち続けていれば金利上昇の波に自動的に乗ることができるのです。

また、1年経てば元本割れすることなく中途換金できるので、あえて満期の短い固定金利型を選ぶ必要がないのです。

個人向け国債の賢い利用の仕方

では、お金の預け先として個人向け国債がいいかと言えば、メリット・デメリットがあります。

まず、購入の仕方です。個人向け国債は毎月発行されますが、その都度、金融機関(銀行、証券会社など)で申し込みをしなければなりません。定期預金の積み立てのように、一度申し込んだら自動的に購入できるわけではありません。また、1万円以上1万円単位なので、預貯金のように1万1,000円貯める、という使い方もできません。

金利についても、前述したとおり、一般の定期預金金利よりは高いですが、一部のネット銀行や地方銀行のネット支店であれば、0.05%以上の金利を提示しているところもありますから、金利優先で考えるなら、そうした高金利定期と比較することが大事です。

個人向け国債を活用するとしたら、毎月発行なので、たとえば10年後に毎月償還するように購入すれば、子どもにかかる教育費に毎月充当するという使い方もできます。年金世代であれば、隔月で購入しておき、年金受給(隔月で2カ月分を受け取る)がない月に償還金を受け取れるようにする、という使い方もできるでしょう。

半年に一度、ボーナス時期にまとまったお金で購入するということもできます。将来の臨時出費に備える、住宅購入の頭金づくりに充てる、という考え方もあります。

ただし、利息については、保有している期間中、半年に一度利払いがありますので、日常の口座のなかにまぎれてしまわないようにしましょう。10万円分の個人向け国債を購入したら、償還金は10万円であることを覚えておきましょう。


伊藤加奈子
マネーエディター&ライター。法政大学卒。1987年リクルート(現リクルートホールディングス)入社。不動産・住宅系雑誌の編集を経て、マネー誌『あるじゃん』副編集長、『あるじゃんMOOK』編集長を歴任。2003年独立後、ライフスタイル誌の創刊、マネー誌の編集アドバイザーとして活動。2013年沖縄移住を機にWEBメディアを中心にマネー記事の執筆活動をメインに行う。2級FP技能士。