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猫を多頭飼育する場合、困るのは健康管理です。どの猫がどのくらい食べたのか、また嘔吐物や軟便をどの猫がしたのかを判別することが難しいです。特に排泄物に関しては現場を目撃しない限り、どの子に問題があるのか特定することは不可能でしょう。

こんな時はどう対処したらよいのか?

猫のトイレに軟便があり、どの猫がしたのかを特定したい場合、どう対処したら良いのか。

獣医師という立場上、基本的には「心配であれば病院で相談して下さい」という答えになってしまいます。しかし愛猫の誰かが軟便になったたびに病院に行っていては、お金もかかってしまいますし、すごく心配性な飼い主さんと思われてしまうかも、というお気持ちも分かります。

また私たち人間も食べ過ぎたり、ストレスがたまったりすると、お腹がゆるくなることがあるように、一時的に便が柔らかくなっているだけかもしれません。ここでは、どんな便だと緊急性が高いのか、どんな時は様子を見ていいのかを判断するコツを解説します。

便スコアを参考にすると良い

便スコアというものを参考にすると良いでしょう。ウォルサムがウェブ上で公開している糞便スコアチャートです(リンク先には猫の便の画像があるためご注意ください。こちらから閲覧できます)。

便の柔らかさについて、スコア1~5まで0.5刻みで評価することができます(ウォルサム糞便スコアシステムより)。スコア1は硬すぎ、スコア1.5~2.5までが理想的な便、そしてスコア1.5~3.5までが許容範囲、4以上が問題のある軟便とされています。

1……固く、乾燥していて砕けやすい。「弾丸状」。
1.5……固く乾燥している。
2……よく成型されており、持ち上げた時に跡が残らない。
2.5……よく成型されておいて、表面がややしっとりしている。持ち上げたときに少し跡が残る。触ると手につく。
3……水気があり、形が崩れ始めている。持ち上げると明らかに跡が残る。
3.5……水分が多いが、まだ明らかな形を保っている。
4……形が崩れている。全く形がない訳ではないが、均質性がなく粘性。
4.5……部分的に形はあるが、泥状。
5……水様性下痢。液体のよう。

スコア4以上、つまり便の形を失っている場合は緊急性が高いので、この場合は病院へ連れて行った方が良いでしょう。

年齢によって下痢の原因をある程度判断できる

3歳未満の猫の下痢は、やはり感染症の割合が高いです。感染症の場合は他の猫、また人間にもうつる可能性があるので、便スコアが4未満でも早めに病院でチェックしましょう。特に迎えいれたばかりの猫、外出することがある猫の場合は要注意です。

そして7歳以上になってくると、今度は胃腸のがん、膵炎、炎症性腸疾患(IBD)、内分泌の病気などの病気が出てくる歳です。外見は若く見えますが、猫の7歳は人間年齢に換算すると44歳、中年期にあたります。

その他の異変がないかもよく見る

通常、病気が原因で軟便になっている場合は下痢以外にも症状がみられます。食欲減少、体重減少、嘔吐、元気がない、動きが悪い、便に血が付着している、などいつもの状態と比べて異変を感じたら便スコアが4未満でも一度獣医師に相談した方が良いでしょう。特に体重が減少している場合、長期的に病気を患っていると判断することができます。

最後に

猫が下痢をしていた場合、安易に「様子を見る」のはオススメできません。「様子を見る」というのは、医学用語では「経過観察」といいます。この「経過観察」を判断することは実はとても難しいことで、豊富な知識と経験が必要です。

これは毎日多くの動物を見ている獣医師にとっても難しく、特に猫の場合、辛くてもあまり顔に出さないので、安易に経過観察をしているとあっという間に状態が悪化してしまうことがあります。

便スコアや年齢も目安でしかなく、5歳で便スコア3.5だとしても病気であることも珍しくありません。チェックするときに、特に大事なのは3つ目の、「その他の異常」です。中でも「体重」はとても客観的な指標ですので、定期的に体重を測定しておくのは非常に大切です。

日頃からよく愛猫を観察し、ささいな変化に気がついてあげられるようにしましょう。

■著者プロフィール
山本宗伸
獣医師。猫の病院 Syu Syu CAT Clinic で副院長を務めた後、マンハッタン猫専門病院で研修を積み今年帰国。現在2016年6月に猫専門動物病院 Tokyo Cat Specialists開院に向けて準備中。ブログ nekopeidaも毎月更新中。