オンキヨー&パイオニアマーケティングジャパンは、東京のオンキヨー・マリンシアターにて、オブジェクトオーディオ体験会を開催。次世代のサラウンドシステムである「Dolby Atmos」のデモンストレーションを行った。
Dolby Atmos以前の映画音響
体験会の冒頭では、映画音響の歴史について説明があった。登壇したドルビージャパン シニア・マネージャー コンテンツ・リレーションズの林正樹氏は、映画『エヴェナント 蘇えりし者』などを手がけた音響デザイナー、ランディ・トム氏の言葉を引用し、「映画は"映像メディア"ではない。かっこいいシーンは、優れた映像と音声の相乗効果の結果であり、両者を切り離して判断することは不可能である」と、映画におけるサウンドの重要性について話した。
映画音響の歴史は長い。1920年代に始まったトーキーに端を発し、モノラル、ステレオ、さらにドルビーステレオ(4ch)へと着実に進化。1980年代以降にはマルチチャンネル時代に突入し、5.1ch、7.1chといったサラウンド技術が次々と確立されていった。そして現在、まるで観客が映画の中に入り込んでしまったと感じるような、オブジェクトベース音響の時代へ至る。
「オブジェクトベース音響の登場により、映画制作者は音の一つひとつを劇場内に精密に配置し、自在に動かせるようになった。2012年の『メリダとおそろしの森』を皮切りに、すでにハリウッド主要スタジオ制作の480作品以上でDolby Atmosが採用されている」と林氏は話す。
Dolby Atmosと、従来の劇場用立体音響システムが大きく異なる点は2つある。一つは、縦軸方向(上下)の音像の移動を可能にする頭上に設置される2列トップ・スピーカーの存在。次に、劇場を1つの空間に見立て、そのどこにでも自由にサウンドを定位させられる"オブジェクト"という新しい考え方だ。
Dolby Atmosを体験
デモンストレーションではまず、オンキヨー・マリンシアターの天井に設置されたトップ・スピーカー4台を含めた7.2.4ch環境で蚊が会場内を動き回る音を試聴した。再生を開始した瞬間、会場を自由自在に飛び回る「蚊」が出現(したかのようだった)。頭上や耳元を飛んでいるようなリアルな存在感に、オブジェクトオーディオの威力を思い知らされた。
デモンストレーションを担当したオンキヨー&パイオニアマーケティングジャパン 上田賢司氏。ステレオ、5.1ch、Dolby Atmosの比較試聴などを実施した |
デモンストレーション中にスクリーンに映し出された映像。会場内において、黄色い点が示す位置から音が聴こえてくる |
続いては、家庭ではなかなか設置の難しいトップ・スピーカーの代わりに、天井からの反射音を利用してDolby Atmosを再現するイネーブルド・スピーカーを使った7.2.4chを体験した。試聴したのは、『ミッション:インポッシブル ローグ・ネイション』(6月3日発売)、『シーズンズ 2万年の地球旅行 Blu-rayコレクターズ・エディション』(7月12日発売)、『BEGIN25周年記念コンサート Sugar Cane Cable Networkツアー 2015-2016 at 両国国技館 Blu-ray Disc』(6月8日発売)の、Dolby Atmos採用Blu-ray3作品だ。
『ミッション:インポッシブル ローグ・ネイション』では、カメラアングルと完全にリンクしたサウンドが否が応でも臨場感を盛り上げる。『シーズンズ 2万年の地球旅行』では、上下する小鳥のさえずりをはじめ、大自然の中に身を置いたかのようなリアルな空気を体感でき驚いた。
個人的に衝撃的だったのは『BEGIN25周年記念コンサート』のライブ映像だ。コンサート会場の一体感がそのまま再現されており、音の回り込みやDSPでは得られない自然な残響感なども感じられる。これまでライブ会場でしか味わえなかった、鳥肌ものの生ライブを部屋に居ながらにして楽しめる。アーティストのライブを特等席で観覧している気分。これを一度味わってしまうと、もうこれまでのサラウンドには戻れなくなるのではないか。音楽好きにはぜひ一度体験してもらいたい。
Dolby Atmosの導入スクリーンは全国22カ所と拡大しており、Dolby Atmosはこれからも多くの映像コンテンツに採用されていくと思われる。オンキヨー&パイオニアマーケティングジャパンは、手軽にDolby Atmosを体験するための最小構成として2.1.2chを提案しており、Dolby Atmos導入のハードルを下げるべく働きかけている。